また一体。俺の目の前でデータのくずとなったやつの数が増えた。
テイマー?絆?ふん、そんなの一握りの人間の力を借りなければいけない弱者の束さ。
たいていのデジモンはこの環境で生き抜き、強くなっていくしかない。
俺もそんな弱肉強食の世界の一員だ。
今まで倒したデジモンは数知れず。俺の爪で引き裂かれ、けりで粉砕され。
しかし負けたこともある。あの忌々しい記憶・・・
俺が成熟期になった頃のとき。
薄暗い森の中でぶらぶら歩いているときだった。
一人の人間と、成長期のデジモンにであった。
俺は即飛び掛り、爪でやつらを切りさこうとした。腹が減ってたしな。
まずは目障りな人間のほうから八つ裂きに・・・!
だが驚いた。人間をかばいやがった・・・
成長期のくせに俺の爪をもろに受け、吹っ飛んだ。
人間も人間だ。吹っ飛んだやつをあわてて追っかけていく。
馬鹿らしい。実に間抜けな行動だ。何のためにそうするんだか。
強くなるにはルール無用の冷徹な勝負が必要だ。
こいつらはそれを知ってるのか?互いをかばっている暇があったら普通は逃げるなりよけるなり反撃をしようとするもんだ。
俺が眼中にないってか?なめやがって・・・
俺は口から青白く伸びる炎を吐き出す。
その瞬間だ。あの成長期のガキがいきなり光りだしやがった。
そいつは俺によく似た姿だった。青い体に模様。獣のような姿。
そして俺と同じように炎を吐き出した。だが火力が俺と圧倒的に違った。
こ・・・こいつは一体・・・
俺はそのまま押され、炎を腹に受けて森の木を数本なぎ倒し、体のワイヤーフレームにダメージを負ってぐったり倒れた。
「ぐ・・・」
俺はこの状態では無理と判断し、あきらめた。
だがやつらは俺が生きていることくらいダメージから分かっているだろうに、なぜかその場から去っていった。
青い獣もその毛皮を被った爬虫類型デジモンに戻った。
そしてあいつらは「馴れ合い」をして、その場を去っていった。
これが俺の忌々しい記憶だ。
思い出しただけで反吐が出そうになる。この俺が・・・
俺はあれから幾多のバトルとトレーニングを経験し、進化した。
身体能力が基本的に上がり、技が多彩になった。
そして・・・やつらに復讐するときを待っている。
だがどいつもこいつも違っていた。
もう夜だ。俺は安全な場所を探そうとそこらへんをぶらついていた。
だが夜なのに明るい場所があった。火を炊いているらしい。
ということはそこらへんは安全な場所で、どこかのやろうが馬鹿みたいに目印たてながら暖を取っているのだろう。
とりあえずその近くまで行ってみたが、たまげた。
探していたやつらがそこで寝てるじゃあないか。
俺は前のような失敗をしない。今度は毛皮をかぶったまま寝ているデジモンのほうをしとめることにした。
「死ねぇえええっ!!」
真紅に怪しく光る爪が物を切りさく手ごたえ。
たしかに、あった。
だがそれは、デジモンを切りさいた感覚ではない。
切りさいたものからは赤い液体が服ににじみ出ている。
「ぐ・・・やめて・・・くれ・・・」
運よくかすっただけですんだのだろうか。
いやそんなことはどうでもいい、こいつ、デジモンを突き飛ばしてかばいやがった・・・
運悪かったら間違いなくミンチになっていたのに何故だ・・・
「あ!大丈夫!?」
突き飛ばされておきたのだろう、やつに飼いならされているガブモンは目を覚まして驚いている。
「逃げて!君だけでも!」
腕から絶えず真紅の生命の水がほとばしっている腕を抱えて、人間は叫んだ。また馴れ合いか・・・
「嫌だ!僕のテイマーは・・・!君だけなんだぁああっ!!」
まただ。またあいつの体が光った。
だが所詮、進化しても成熟期。俺の敵ではない。
「ガブモン、進化ぁあああっ!!」
俺はそのとき気づいた。あの時の光と桁が違う・・・
「メタルガルルモン!」
全身を金属で武装した、獣の姿。
「お前・・・!何故だ!何故僕のテイマーを襲った!答えろ!」
理由?ふん、分からないのか。俺がお前らにとってコケと言う存在だから忘れたのか?
「違うんだ・・・彼は・・・君を・・・」
そこまでいいかけて人間はひざを地面につけた。
「ぐ・・・だめだ・・・目が・・・かすんで・・・」
荒い息をしながらその場に倒れた。
「・・・うわぁあああああああああああああっ!!」
目の前のメタルガルルモンは絶叫した。感覚で分かる。こいつは・・・
「よくも!よくもぉおおおおおっ!!」
突っ込んでくる、駄目だ・・・気迫に負けて体が・・・
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
死ぬことを覚悟した、そのときだ。
「駄目だっ!」
響いた人間の声に、ぴたりと止まった。
「で・・・でも・・・!」
「駄目だよ・・・君は・・・僕のパートナーだもん・・・他の命をあやめるようなことだけは・・・しないで・・・」
息絶え絶えに言葉を発する。黙っていればいいものを。
「でも・・・!あいつは・・・君を!」
「・・・だからって、駄目だよ・・・」
俺はまた完全に蚊帳の外だ。仕方ない、俺の存在を認識させるか。
「カイザァネイルッ!」
俺は爪を光らせ、人間へ突進していく。
ドゴゥッ
やつが機械の体で体当たりしてきた。
「わかったよ・・・だけど・・・これ以上君を傷つけるわけには行かない・・・僕は戦うよ・・・君のために!」
「倒しちゃ・・・駄目だよ・・・」
く・・・こうなったら自棄だ!突っ込んで行ってやる!
「お前じゃ・・・僕には勝てない・・・!」
何をほざく!くらえぇっ!!
「円月蹴り!」
狙いはぴったりだ、やつの顔面へ俺の蹴りから発せられた衝撃波がやつにぶつかり、やつの顔面を・・・!
「・・・グレイスクロスフリーザーッ!!」
その瞬間、やつの方から、すねから、腹から、体のいたるところから冷気を感じさせられるミサイルが発せられた。
数十発、一発は衝撃波を消し、残りは・・・俺のところに・・・!

目を伏せた。それは俺が戦意を失ったことを意味する。
・・・だが俺はダメージを受けていなかった。
そのかわり、俺の周りには氷の壁が立ちふさがっている。
殴ってみても堅くてこちらが参ってしまう・・・これは・・・
外で声が聞こえる。

「大丈夫?怪我は大丈夫なの?」
「・・・分からない・・・ごめん、悪いけど荷物から薬草を・・・」

く、俺はあんなことをしているやつらに負けたのか・・・胸糞悪くて仕方がない。
だが、何故負けたんだ?俺は・・・あれだけあいつらに対して憎しみが有るのに・・・

「ありがとう・・・腕、何とか大丈夫みたい。ただ、ちょっとふらふらするけどね。」
メタルガルルモンはいつの間にか成長期まで戻っている。
「いつも撲が怪我治してもらってるんだ、当然だよ。」

野性のデジモンとテイマーとともに生きるデジモンが戦う理由、きっと同じではないはずだから・・・