果てしなく広がる空。どこまでも青い空。
この空にあこがれる。魅力を感じる。
俺も昔はこの空を自由に羽ばたく、白い6枚の翼を持つ天使型デジモンだった。
しかし、いつの日だったか。
俺がデジタルワールドないを飛び回っているとき。
空の青さと差し込む日の光と暖かさ、そして抜けて行く爽やかな風を楽しんでいた。
だが、急に背部に火炎弾が当たるのを感じた。
羽が・・・燃える・・・
俺はそのまま地上へ落下、もろに衝撃を受ける。
のっそのっそ近づいてきたのは、ブルーメラモンだった。
青い高熱の冷たい炎。こういうと矛盾するが、前者の熱に関する記述は温度そのもの、後者は精神的、雰囲気的なもの。
俺は何とか体を起こし、空中に飛び上がる。
「ヘヴンズゥ・・・ナックルゥゥッ!」
拳から放たれた黄金に光。
普段の俺ならそれは相手に当たっていただろう。
だが、空中に飛び上がったのはいいものの、バランスを崩し、攻撃はあらぬ方向へと向かう。
ブルーメラモンは飛行できない俺にゆっくりと近づく。
「悪く思うなよ・・・これが俺たちの世界なんだ・・・」
振り上げた右手。そこには強い念が込められた青白い炎。
俺はその右手から、生への執着、そして哀れみを感じた。
俺の記憶はそこで一旦途切れ、次に目を覚ましたのは闇に包まれた世界だった。
「・・・!ダークエリア・・・」
つまりは俺はデリートされたのだな、と理解した。
弱肉強食の世界、これが当然なのだが。俺はしばらくここをさまようのだろうか。ボロボロのツバサでもいい。また優雅に空を飛べる日は来ないのだろうか。
「お気の毒でしたね。ですが、我々の世界では仕方がないのです。」
急に聞こえた声に振り返ると、そこには1人のデジモンがいた。
「ワタシはダークエリアの審判、アヌビモン。単刀直入に聞きます。あなたはまたあの世界へ戻りたいですか?」
俺にとっては当然の質問。あの空を飛ぶことが、俺の生きがいなのだ。
広い広い空、そこに優雅に舞う俺こそ、俺のあるべき姿なんだ。
「もちろん。俺は生きたい!お願いします!戻してください!」
すると、アヌビモンは少し考えてこういった。
「ふむ・・・よろしい。そなたは不幸によって本来の寿命より短くして死んだ。あちらへの許可を下します。」
俺はそれを聞き、
「あ、ありがとうございます!」
喜びが伺えるであろうお礼を述べた。
「では・・・」
アヌビモンはそれだけいい、後ろにある腰掛に座った。
そのときだ。俺のからだの構成が分解されていったのは。
きらきらと光、上へと向かう。
「こ・・・これは!?なぜ?」
するとアヌビモンは冷静に、
「そなたは一度シんだ身。新しい命としてあちらに戻すことはできますが、今のまま戻すわけには行かないのです。これはルールなのです、あきらめてください。」
俺は驚きよりも怒りが先に出た。
「あきらめろだと?俺が俺でなくなるんじゃないか。だったら俺はそれを望まない・・・俺は自分の力で戻ってやる!」
傷ついて飛べないかもしれないが、俺は羽を大きく広げ、闇の大地をけった。
「いけません!あなたはそんなことをしてはいけない・・・く・・・アメミットッ!地獄の番人よ、かのものを捕らえよ!」
アヌビモンは凶暴そうな魔獣を召還する。うわさを聞いたことがある。やつに食われるとデジコアが・・・食われるのだ・・・
「いやだっ!いやだぁあああっ!」
羽を思いっきり動かすと、案外飛ぶことができた。俺はこのまま逃げ切れると確信し、上へ、上へと向かった。
アメミットはだいぶ飛んだところで声がしなくなった。それに翼に痛みはない。
そして、その少し後だ。少し明るいところに出ることができた。
そこは洞窟のような場所で、出口が明るい。
俺はもう痛みが引いた翼で一気に外に出た。
長年忘れていたような気さえもする開放感。緑の草々や木々を抜け、俺は空へと舞い上がった。
だが、その感触は違った。
吹き抜ける風の爽快感や、明るい日の光、青い空、全てが自分とあわない気がした。そんなはずはないのに、だ。
そのことを考えているうちに、俺は自分の体に目を移した。

その理由を知ったとき、俺は絶望した。
白かった羽は真っ黒に染まり、兜はなく、さらに羽だけでなく手足も、体も、全身が黒くなり、胸には赤い模様が刻まれていた。
この俺の姿を形容するならば、まさに「悪魔」であろう。
強く握れた拳は、今は鋭い爪で握れない。

「う・・・うぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

俺はただそう叫ぶしかなかった。
自分の姿、あれだけ好きだった空が、今は本当にむなしく感じた。
そして俺は以来あの洞窟でひっそりと暮らしている。たまにこのことを思い出し、嘆き叫ぶ。デジモンたちはそれを悪魔の叫びと呼び、決して近づかないようになった。
いつか・・・またいける日が来るだろうか・・・あの・・・青い空へ・・・