何故僕はここにいるんだろうか。 こんな真っ暗な世界、望んできたわけではないのに。 でも前にいたところもひどかった。 僕は腹が減り、体力も落ち、また環境も悪く排泄物がすぐにたまった。 だけど僕はその運命に従っていた。 そしてそんな時、そう、いつだかは分からないけれども視界が急に落ちた。 真っ暗に。 えさも食べる必要もない、なんともいえない世界。 仮死したものたちが来る場所だろうか? そんな空間、僕はしばらくぼけーとしていた。 これでもいいのだ、苦しむこともないし。 だが、ある日。僕の視界が明るく戻った。 僕の姿はかつての僕の姿とは違うが、たま〜に昔の記憶が残るんだ。 僕は正直またあの生活が戻るのかと思いうんざりした。 だが、今回は違った。僕はこの場所に生まれた運命、 えさを誰かから供給されたり、誰かに導いてもらわないと運動もできず、 そして排泄せつ物も処理してもらう立場であった。 だからいつも腹が減り、力は衰えていた。排泄物もたまりにたまっていた。 そして僕は死に、あの何もない場所にいたんだ。 「お、生まれた!」 画面を越えて見える顔つきはとてもうれしそうだった。 その顔は昔僕が見たことある顔とは全然違う。面倒くさそうで、 画面も一日に一回見るか見ないかのようなやつのはずなのだが。 彼はすぐに僕の腹を膨らませてくれた。 そして適度に運動もさせてくれた。排泄物もすぐ流してくれた。 とても過ごしやすい環境だった。 彼はいつでも僕のそばにいた。 前のやつが『学校』とかなんとかいう場所には持っていけないからって おきている僕を置き去りにしていった。 それに対して彼は、僕の世話をいつもしてくれている。 彼に感謝したい。彼にお礼がしたい。 いつか実際彼にそれをできる日を、僕は待ちのぞんでいた。 しかし、あるとき前のやつが彼に詰め寄っているのを僕は見かけた。 「おい、いい加減返せよ、俺のだろ?そんなの楽しそうにやってると、 俺もしたくなってな。」 前のやつはそういっていた。僕はそれはいやだ。 僕は彼から離れたくはない。それを察したのか彼は、 「いや、だったら金を君に払う。それでいいだろう?」 「それじゃあ駄目だ。お前が持ってる金なんてたかが知れてるしな。 だったらこうしないか、久しぶりに新しいのでるそうじゃないか。 俺はそれを買って育てるから、俺が育てたデジモンと闘って、 お前が勝ったらそれをお前にやるよ。」 「・・・わかった・・・こいつが勝てばいいんだな・・・」 どうやら僕は近々勝負することになったらしい。 彼は言った。 「なぁ、あいつはきっと新しい機種『ペンデュラム』のデジモンで来る と思う。俺じゃあ力不足で君を進化させられないかもしれない。 でも君を手放したくないんだ・・・僕は全力を尽くしてがんばるから。 君もがんばってくれ、ね?」 何も話してこなかったあいつと違い、彼は本当にいいやつだ。 僕は彼の気持ちにこたえ、数回姿を変えた。つまり進化した。 そしてとある日。 彼は僕を持ち出して『公園』とかいう、 遊ぶものがおいてあるところに向かった。 そしてそこにつくと、あいつが俺と少し形が似ているデジモンを持って、 「着たか・・・んじゃ早速だ。」 「・・・わかった。」 彼は僕とあいつが持っているデジモンを連結させ、バトルを開始した。 相手はゲコモンだった。しかしお気の毒だ。 きっと寝たくても電気がつけっぱなしだったり、 ウンチしても流してもらえなかっただろう。 気に入られなかったらその度にリセットボタンを何度も押され、消されて。 そして僕はグレイモンだ。 相手はすぐさま必サツ技を出してきた。体の中で何かが起こるのを感じた。 僕はすぐに相手に突進し、角で弾き飛ばした。 だがダメージは追っているようだがなお必サツ技を放つ。 僕はからだの中でピキ、ピキ、と崩れ去るような感じがした。 動けない・・・僕は彼の気持ちに応えたいのに・・・何故?何故・・・ 「あきらめるな!がんばれ!がんばれっ!」 ふと聞こえた声。僕に向かって彼が声を張り上げている。 「お前馬.鹿じゃないのか?たかがゲームによ。」 あいつはそういったが、彼はなお僕を励ます。 力が・・・まだ・・・戦える。 僕は闘う、何故?それは彼の気持ちに応えるため。そうだ・・・ 彼のために・・・ 僕は全身に渾身の力を入れ、ジャンプした。 そして口から爆熱の炎を思いっきり吐き出した。 その炎はあいてゲコモンを焼き焦がした・・・ 「え・・・負けた・・?俺が・・・?」 「約束だったね。僕はこれを譲ってもらうよ。」 「け・・・好きにしろ。こいつもな。 俺はもうデジモンなんかやってらねー。」 あいつは今傷ついたゲコモンの治療もしないで彼に投げつけた。 「おっと・・・大丈夫か?」 彼はまたそのやさしい微笑を今まで僕と戦っていたゲコモンに向けた。 彼はきっと、いつか僕らと会える日が来るだろう。彼ならば。 僕が彼といる理由。何故?ときかれたらそうすぐ応えられないかもしれない。でもそれは、彼が好きだから。