「僕たちずっと一緒だよね?」 一つの小屋がある平原で、こちらを上目遣いで見ながら訊いて来る。 「ああ、もちろんさ。」 「わぁーぃ!やったぁ!」 柔らかそうな草の上をぴょんぴょんはねて喜ぶ。 僕もその姿を見て微笑む。 幸せって、こんなことを言うんだろうなぁ・・・ お金も人間の汚れも無い世界。デジタルワールド。 僕がこの世界に来たのは少し前だ。 僕はそれから僕の傍らで飛び跳ねているコロモンを育てている。 この前まではボタモンだったんだけど。少しの時間が過ぎたら進化した。 進化する瞬間、体が白く光った。 ボタモン(コロモン)本人は体が熱くなっていくのが分かったみたいだ。 「ねえねえっ!」 コロモンが物欲しそうな目でこちら見る。 「おなかすいたよ!」 「はいはい。」 僕は荷物入れ(と言っても食料や薬だけだけど)から一つの肉を取り出す。 「はい、これじゃ足りない?」 「えへへ!うん!」 すごい食欲でがつがつ食べる。 幼年期といえども、かなり食べるようだ。 「さて、満腹になったし、トレーニングするぞ。」 僕はサンドバックがつるされていくほうに歩いていくと、 コロモンもついてくる。 このときの目は、えさを求める目ではなく、真剣そのものだ。 「えぇぃっ!」 柔らかそうな体を弾ませてサンドバックにタックルする。 バン、とサンドバックが少し動く。 それを数回すると、 「ふぅ・・・」 「どうした?」 「またごはん・・・頂戴・・・」 さっきやったばっかなのに・・・やはり食欲はすごい。 だが、僕は本当に楽しかった。 パートナーを育てる喜び、幸せだ。 そして楽しく過ぎているある日。 黄色いスライム型のデジモンがけんかを売ってきた。 「まだ生きているやつがいたか・・・くらえ!」 コロモンに向かって毒性の泡を吹きかけてきた。 「うわぁーーっ!」 攻撃を受け、ダメージを受けてしまった。 「大丈夫?」 俺が駆け寄ろうとしたが、コロモンはきっとした目つきでズルモン をにらめつけ、体当たりをする。 「ぎゃぁっ」 結構なダメージがあった。 「くっそう!」 ズルモンも反撃に移ってくるが、コロモンはそれをよけ、 口からさんの泡を吹きかける。 バチバチ、と音を出してズルモンに当たってわれ、 ズルモンは一目散に逃げ出した。逃げるのが得意らしい。 「やったぁ!」 勝利を喜ぶ純粋な彼を見ながら、僕は彼に肉を上げようとした。 が、彼の体が瞬間、まぶしく光った。 時計を見ると、丁度時時針がキリのいいところになっていた。 「進化・・・した・・・」 彼は黄色い爬虫類型デジモン、アグモンに進化した。 「やった。また強くなったな!」 「ああ、そうだね。」 進化して早々、草原の入り口にいるピコデビモンに勝負を挑みに言った。 彼は予想以上に弱く、ベビーフレイムと爪攻撃をくらって、 「覚えてろー」 と捨て台詞をはきながらデータに戻った。 「やったね。」 「うん、僕たちはずっと一緒に闘おうね。」 「それじゃあ、やくそくだよ?」 僕は手を差し伸べると、彼はその僕の手を握った。 「「はははは。」」 僕たちは笑った。これからする楽しい冒険。 その未来に対する微笑だ。 僕らはしばらく2人でがんばってきた。 だが。ある日。 「ぐぁ・・・」 とどめの一撃をさされ、アグモンは倒れた。 「アグモォォオオンッ!」 僕は絶叫した。 そんな・・・アグモンが・・・ 「ごめん・・・僕・・・勝てなかった・・・」 「いいんだっ、大丈夫?大丈夫!?アグモン!?」 薄く目を開いた彼の体を僕は抱きしめた。 「ふん・・・その様子じゃあ無駄だな・・・」 まるで悪魔のような声。いや実際悪魔なんだろうか。 「く・・・お前!」 僕はきっとした目でにらめつけるが、 「貴様では無理だ。確かに力がある。デジモンを育てる才能、認めよう。 しかし未熟だ。それにわれわれのような力はない。 お前の相棒が瀕死の今、お前はただの雑魚だ。」 僕は何も言い返せなかった。 相手のことも何も知らず、しかも複数の敵に挑んだ僕が悪かったんだ。 自分が・・・いやになる。 「ち、違うっ!」 アグモンがふらふら体を起こして、 「こいつは・・・僕と一緒に戦ってくれる、立派なテイマーだ! お前なんかにけなされてたまるか!」 数歩前に踏み出し、口から火炎球を何発も放つ。 それは物体に触れるたびに、それを焼き焦がす。 だが、敵デビモン3体に簡単によけられ、打ち消されてしまう。 「く・・・」 アグモンは技を放ったことで体力を消耗し、膝をがくりとつく。 「アグモン!」 僕は彼の元へ行こうとした。僕は彼のテイマーなのだから。 ザシュゥッ 静かにその音は回りに響いた。 アグモンの胸を、一筋の黒い直線状のものが貫いていた。 その先端は、赤い爪。 「あ・・・が・・・」 死の爪。それが僕のパートナーを貫通している。 「そんな・・・まさか・・・」 アグモンはすでに手の力がぐったり抜けている。 デビモンが腕を抜くと、そのまま倒れふす。 「アグ・・・モン・・・」 白目をむいた生気を失った顔。 僕は受け止めたくない現実を目の前にしている。 アグモン・・・アグモン・・・ 俺は心の中でつぶやき続けた。 手を握り、ずっと。 頼む・・・目を・・・覚まして・・・ グッ、と一瞬僕の手に力がこめられ、アグモンの顔が笑みに変わった。 「あぁ・・・」 僕は、アグモンが自分はまだ大丈夫だ、と訴えようとしているのかと思った。 よかった、本当に良かった。 そう、思っていた。 次の瞬間、アグモンの手の力は抜け、足元から光となって、 空へ一筋の粒子の道を作り上げていく。 「・・・ぁああっ・・・」 先ほどの声とはまた違う。 期待と安心感からなるものではなく、絶望と不安からなるもの。 あれは自分の生命を訴える握手。 だがそれも違う。 あれは、僕との最後の、別れの握手。 僕は・・・テイマー失格だ・・・ 「人間。」 はっとする。もう光の粒がそこらにあるしかない彼の姿から、 潤んだ目でデビモンをにらめつける。 「貴様は無力だ。パートナー一人救えない。無力な・・・」 ・・・何も言い返せない。 そんな自分に嫌気もさせない。本当なのだから。 「さあ、人間に用はない。さっさと立ち去れ!」 軽く腕でなぎ払われ、僕は数m吹っ飛んだ。 そして、その風圧で彼の姿も消えてしまった。 僕は空っぽになった。 ぽっかり開いた穴。意識虚ろになる。 ゆっくりと、草原に建っている小さな小屋へと向かった。 向かっているといっても、蟻といい勝負だ。 足場が不安定なような歩き方。 もう・・・心がない・・・ 僕は小屋の中に入り、ボケーっと突っ立ったまま時間をすごした。 思い出される記憶。 トレーニング、食事、ウンチ、そして話した思い出・・・ 「僕たちずっと一緒だよね?」 一つの小屋がある平原で、こちらを上目遣いで見ながら訊いて来る。 「ああ、もちろんさ。」 「わぁーぃ!やったぁ!」 「ずっと・・・一緒って言ったじゃないか・・・」 誰もいない部屋で、一人声を震わしていった。 「一人じゃ・・・ない・・・」 「え?」 突如聞こえた声に、辺りを見回す。 赤いデジタマ製造機が、いや、デジタマ製造機に一点、 光っている部分があった。 「僕は・・・君といつでも一緒だよ・・・たとえ目には見えなくても。」 その声を聴いた瞬間、僕の中の何かが暖かくなってきた。 「アグ・・・モン・・・」 「またいつか、一緒に旅をしよう。」 光はそれだけ言い終えると、小さくなって消えていった。 「アグ・・・モン・・・」 僕はデジタマ製造機に、1歩1歩歩み寄る。 ドックン ドックン 鼓動が徐々に早くなるのが感じた。 もし・・・もし、アグモンと一緒に冒険できるなら・・・ 僕は無意識のうちにボタモンのタマゴをデータから作るタマゴの 番号を押しかけていた。 だが、僕ははっとした。 アグモンは・・・僕のパートナーだ。 きっと・・・また生まれて着たら僕との冒険を喜ぶはず・・・ そう、思っていた。 だが僕は気づいた。 あの握手の意味を。あの笑みの意味を。あの言葉の意味を。 僕は、入れていた数字をリセットし、森で育つデジモンの番号を入れた。 これで・・・いいんだ・・・ 僕は彼のテイマーだ。だから、だからこそ。 今やるべきことをやらなければいけない。 未来、彼といつまでも笑って旅ができる日のために。 それが、僕と彼の絆の意味なんだ。