子供達が周りを見れば、木が高速で動いているようだった。
だがしかし、高速で動いているのは自分達であり、その動きを可能にしているのがその下にいるグルルモンである。
グルルモンはしばらく走ると、行き成りとまった。
子供達はその衝撃で、地面に落ちる。
「いっててー・・・」
「もうちょっとゆっくり頼むよ、グルルモン・・・」
条と知己はそういっていたが、デジモンたちは違かった。
近くから漂う闇の雰囲気を感じ問、ぴりぴりしていた。
「条、感じるんだ。なんか、ドブ水を飲んだ後のような嫌な感じがする・・・」
「この近くに、強い邪悪を感じる・・・」
デジモンたちは警戒体制を取り、いつでも戦闘できるようにする。
「お前たちに伝えることがある。」
グルルモンが突拍子に喋る。
「この森には昔、未来を予知できるデジモンがいたらしい。そのデジモンの予言だ。『蒼き竜が邪悪に目覚めるとき、深紅の竜へと覚醒する。深紅の竜が傷つくと、黄金の正義の心を取り戻したとき、再び覚醒する』とな。詳しくは知らない。だが、お前らがここにいるのは不自然なことだ。そう考えると、関係がある気がしてな。」
「なんだ?そりゃ?」
条がグルルモンの話を疑問に思った。
「俺も詳しくは知らない。だが昔からの伝承といったところだ。伝えない手はないだろう。」
「・・・んまあ、その状況になればわかるだろう。」
博紀が言った言葉でその話は打ち切られた。
ふと思えば、デビドラモンの姿が見当たらない。
どこだと思い、周りを見渡すと、森には合わない岩が地面にでんと乗っかっていた。
よくその周りを見てみると、土の色が違う部分がある。
「これってまさか・・・」
「なるほどね・・・」
条と博紀が納得したような顔をすると、その岩をどけ始めた。
「なるほど。土の色が違うってことは、その部分の土が削れたのね。つまり、削れている位置に戻せば・・・」
岩は案外軽く、子供達でもどけることができた。
「うし・・・入るぞ。」
中から何かの気配を感じるのはわかる。
だが、ここに来た意味を、それを知るために入るしかないのである。
地面にまるでフライパンに思いっきりアイスピックを食い込ませてあいたような穴がある。
子供達はそこに入っていく。
狭いと普通は考えるが、違った。
穴に入った瞬間、いきなり回りに圧迫感が消えたよう、そう、『無重力の空間』に入った。
まわりは一面の闇だ。相手の姿は見えるが、その後ろが土か何かもわからない。
無重力の空間では、動くことが自由にできない。
「なんだこりゃ!」
エレキモンが楽しそうに泳いでいたが、それどころではない。
「一体何なんだ、これは?」
「うわぁ〜!これも楽しいぜ!」
子供達が少し無重力になれた頃、少しずつ重力が働いてきた。
どうやらこの空間は時間によって重力が変わるらしい。
「一体・・・どこまで落ちていくんだ?」
落ちていく子供達とデジモンたちは、いつしか足に地面の感触を感じた。
「あ、止まった。」
すると、周りの闇が少しずつ晴れていった。
どうやら地下らしく、木の根が空間を貫通している。
そして、デビドラモンがそこには待ち構えていた。
「ふふふ・・・」
「ってんめぇええ!!」
デジモンたちが怒りをあらわにし、戦闘体勢に入る。
DPLUSEVOLUTION
「エレキモン進化ぁぁあああ!!ブイドラモンっ!!」
「ベアモン進化ぁぁあああ!!グリズモンッ!!」
「ハグルモン進化ぁぁあああ!!ガードロモンッ!!」
「フローラモン進化ぁぁああ!!ウッドモン!!」
進化が可能であった。
進化不能なのは地上だけらしく、地下には影響はなかった。
「さっきの借りは・・・返してもらうぞ!」
「うぉぉおおおおおおおお!!」
グリズモンがベアークローで切りかかり、ブイドラモンが鋼鉄のような拳で殴りかかる。
が、
「スカルハンマーっ!」
宝玉を先端につけた杖で2対のデジモンは吹っ飛ばされる。
ブイドラモンは木の根にたたきつけられ、グリズモンはガードロモンに受け止められた。
「ブイドラモン!」
「グリズモーン!」
条と知己が心配そうにパートナーの名前を叫ぶ。
「お、オレは大丈夫だ・・・それより・・・ブイドラモンが・・・」
グリズモンは、幸いガードロモンが自分のほうに飛んでくることをすぐ理解し、ダメージが少ないよう受け止めてくれたのでたいした傷ではなかった。
だが、ブイドラモンは、もろに吹っ飛ばされた衝撃で木の根にたたきつけられたため、ダメージが大きかった。
「ぐ・・・なんだ・・・」
ブイドラモンが額にしわを寄せながら苦しそうに立ち上がり、今自分に攻撃を仕掛けてきた相手を確認する。
「スカル・・・サタモン・・・」
条がつぶやいた。
このデジモンなら知っている。
完全体デジモンだ。
自分たちは成熟期2体、相手は完全体と成熟期1体ずつ。
しかし、デビドラモンには先ほど4体でもやられた。
果たしてその状況で勝てるのか・・・
「ヨク知ってイルな、ワタシの名はスカルサタモン。デビドラモンノ主だ。」
「か、完全体か・・・だが・・・俺は負けないぞ。」
体勢を取り直したブイドラモンが、戦闘体勢に構える。
「フン、成熟期の分際デしゃしゃるナ!!」
スカルサタモンが杖を強く握る。
「ブイブレスアロォオオーーーーーーーッッ!!」
ブイドラモンが渾身の力をこめて口から熱線を放つ。
だが、スカルサタモンはそれを杖で蹴散らし、杖の先端の宝玉から怪しい光を出す。
「ネイルボーンッ!!」
ピッカァッ!と、真夏の太陽よりも強く輝くその光に、子供達とそのデジモンたちは一瞬目をつぶってしまった。
条は目を開き、その光景を見て絶望する。
「あ・・・が・・・」
ブイドラモンの体が、回路がショートしたようにバチバチッと音を立てている。
「あ・・・あぁ・・・」
条は言葉を出そうとした。
ブイドラモン、おい、ブイドラモン
と。
だが、絶望のあまり声が出ない。
声を出そうとしているのだが、その絶望のショックが大きく、脳でそれを処理しきれないのだ。
「なあ・・・ブイドラモンはどうしたんだ?」
「おい、条、しっかりしろよ!」
条はみんなの声が聞こえている。
だが返事も返すことができない。
と、そんなときだった。
ブイドラモンの体がバリバリと音を出し、異様な光に包まれ始めた。
「ウガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
光が収まり、姿を確認できるようになった。
だが、そこにいたのは、ブイドラモンではなかった。
怒りと憎しみの赤い色に染まった、レッドブイドラモンである。
スカルサタモンの必殺技は、敵のデータの以上を引き起こさせる作用がある。
それによって、ブイドラモンの怒りと憎しみの感情に影響を与え、それが限界を超えて発動、進化した結果が現状である。
「ホホウ。コイツには資質がアッタミタイダな・・・」
先ほどの正義感に満ちた表情とは違う。
怒りと憎しみによる渇きを敵を倒すことで満たす、そんな雰囲気を放つ。
「オイ、デビドラモン。ちょっと相手してヤレ」
スカルサタモンは先ほどの好戦的な態度を変え、戦闘をデビドラモンに委ねる。
「お任せを!こんな奴秒の単位で!!」
そういって黒い翼を広げ、レッドブイドラモンに向かっていく。
デビドラモンは即必殺技を出す。
「クリムゾンネイルゥッ!」
何もかもを切り裂く真紅の爪で、レッドブイドラモンを引き裂く。
そのはずだった。
「グワァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
次の瞬間、デビドラモンの悲痛の声がその空間内でエコーしながら響き渡る。
「なにが起きたの?」
真希はその瞬間を目で捕らえられなかった。
「な・・・」
博紀は逆に、その光景を捕らえたため、むしろ唖然としている。
そう、何もかもを切り裂くはずの爪だった。
レッドブイドラモンを引き裂けるはずだった。
レッドブイドラモンは真紅の爪が伸びている手を、爪を引っ込ませるように無理やり折りたたみ、拳にしてさらにその拳を握りつぶした。
それだけではない、掴んでいる手ともう片方の手で、爪先から鋭い切れ味を誇る風の刃、カッターシュートを繰り出し、腕を切断した。
それにかかった時間があまりにも少ない。
「う・・・ぐぅっ・・・」
デビドラモンは激痛を堪え、レッドブイドラモンになお攻撃を仕掛けようとする。
片腕が潰されたのなら、今度は逆の手でやればいい。
だが、それも叶わぬことだった。
レッドブイドラモンの拳は、頭部に入っていき体の中心線や背骨を構成するワイヤーフレームを破壊しながら、そのまま股関節に突き抜けていった。
デビドラモンが攻撃を仕掛けようとしたときは、すでにデジコアは破壊されていた。
「スカルサタモン様ァッ!」
あっけない最期だった。
デジコアが破壊されたため、データの屑となり、デリートされる。
「フフ・・・速いナ・・・マ、所詮アイツノ力がソノ程度ト言う事カ・・・」
「てんめぇえーっ!負けることがわかってて!」
知己が怒りを最高潮まで上げる。
許さない・・・俺たちの仲間をおかしくさせ、しかも手下を殺されることが分かってて戦わせる。
許さない・・・
そう強く思ったが、今はそれだけが問題ではない。
レッドブイドラモンの凶暴さは、自分たちにも牙を向ける可能性があるのだ。
「ウゥゥゥ・・・」
レッドブイドラモンは、スカルサタモンのほうに向かって前進する。
「ホウ、私に挑戦スル気カ。」
レッドブイドラモン距離をある程度縮めると、ダッシュしてその勢いでジャンプ、両拳をがっちり固めて振り下ろす。
だが、それをいとも簡単にかわす。
その後、スカルサタモンはサッカーボールをゴールポストに向かってシュートを打ち込むように思いっきり蹴り飛ばす。
レッドブイドラモンは壁にぶち当たり、傷ついた体を起こす気配を感じさせなかった。
「ああ・・・」
条はレッドブイドラモンに近づいたが、途中でそれをためらった。
もしかしたら・・・俺のことをもう忘れているんじゃないのだろうか・・・
そしたら・・・俺は・・・殺されるかも・・・
レッドブイドラモンは、動かぬまま蒼いブイドラモンへと戻った。
条はそこでブイドラモンに近づいた。
そして、今恐怖で自分のパートナーデジモンに近づけなかったことを悔しがった。
何故・・・俺の大切な友達なのに・・・
「サテ・・・マダ懲りない者ガイルナァ・・・」
スカルサタモンがそうつぶやいた。
その瞬間、風の如く空間を移動しているデジモンを子供達は確認できた。
グルルモンである。
「カオスファイアーッ!!」
口から高熱の炎を吐き出す。
だが、スカルサタモンはそれをすらりとかわし、杖で頭部を殴る。
「ぐわぁっ!」
グルルモンが悲痛な声を上げる。
「成熟期の分際デシャシャルカラだ。コノ・・・クズガッ!」
ドガッ!
子供達はその光景を直視することはできなかった・・・
続く