ギリシャ神話を知っているだろうか?
古代ギリシャの人々から受け継がれていく物語。
その中でも有名なのは「メドゥーサ」の話であろう。
「メドゥーサ」は、ゴルゴン3姉妹の中で唯一不死身ではない。
そのためペルセウスに首を取られたわけだ。
「メドゥーサ」の力。それは何より自分の姿を見たものを石に変える力であろう。
そしてまた、この世界にも相手を石にする力を持つものと戦うものがいた。

「もうさっきのエリアの外だよな?」
「周りの色が薄暗い感じするし、そうじゃないかしら。」

隣のエリアに行く。
自分達が元に戻したエリアから外に出ることを意味する。
つまりは、安全ではないのだ。
そんなところに人間だけで行く。どれだけ危険だろうか。
しかしこの4人の子供達は行かなくてはいけない理由があるのだ。
絶対に・・・

「・・・さて・・・ここの区画を治めるデジモンはどいつだ?出てきやがれ。」

知己は強気でいるが、内心はまったく違う。
どう思ったってエリアを治めているのだから成熟期以上のデジモンだ。
そんなデジモンに対する自分達は武器も先頭に利用できるものも持ってはいないのだから。

「死ぬ覚悟はしてある。腹は括ってる。早く出てこい。」

博紀は珍しく性に合わないことをいう。
本来博紀自身も強気なことを言いたいのだが、自分の発した言葉で、覚悟を固めたかったのだ。
そしてその言葉は博紀自身だけでなく、当然3人にも聞こえる。

「博紀・・・私達が生きて帰るんでしょ?じゃないと・・・」

真希は言葉を紡いだ。
それ以上を想像したくはないのだ。

「とにかくだ。とにかく、このエリアに着たからには、もうマイナス思考だの戻りたいだのは言わないことにしよう。」

条は今の皆の心境がわかっていた。
なぜなら自分も同じなのだから・・・

その時だ。
条は背筋に何かが風を切る音を感じる。
慌てて振り返るが、何もいない。いや、いたのだが移動したのだ。

「おい・・・今の見てたか?」

条が知己に言う。

「あー、この位置じゃあばっちり見えたぞー。四速歩行だな、少なくとも。それに早い。」

真希や博紀もあたりを見渡す。
すると、確かに何かがいるのはわかる。
だが木の陰や相手の速さで姿を捕まえることはできない。

「おまえ、何者だ!!」

条がそういうと、そのデジモンは動きを止める。

「・・・ふっ・・・」

狼に似た容姿。青い模様がある毛皮。
ガルルモンに近いが、違う。グルルモンである。
グルルモンは鼻で笑い、それ以上何も言わない。

「おい、なんか喋ってみろよ。」

知己がそういうと、グルルモンは不機嫌そうに喋りだす。

「まったく失礼だな・・・人に区画に入り込んでお前や喋って見ろはないだろ・・・」

意外と冷静な答えに一瞬戸惑った。
だが、自分達をあざけ笑っているのだと思うと、博紀がすぐに言葉を投げかけた。

「お前は俺達をからかっているのか?それとも礼儀にうるさいデジモンなのか?」
「どちらでもないな・・・お前らは敵だと思っているらしいな。」
「当ったり前だろーが。」
「ふふ・・・だろうな・・・だが違う。安心しろ。俺は『味方』だ。敵ではない。」
「え・・・?」

条たちは意外な言葉に驚く。
デビドラモンの配下のはずのデジモンがなぜ味方なんだ?
そう思った。

「ってーことは・・・お前裏切ったのか?」

知己が状況を自分で飲み込みやすいようにいう。

「いや・・・過去形ではないな・・・『今から』だ。」
「?」

またも予想外の言葉である。
こいつは一体・・・

「ちょっと・・・あまり理解できねーんだが?」
「つまりは・・・ほれ。」

グルルモンが一枚のデータディスクを投げる。
博紀がそれを取る。

「なんだ・・・これ・・・?」
「解毒薬のデータだ。5体分ある。お前らのパートナーデジモンは4体だろう?それで足りる。」

それで理解できた。
グルルモンはたった今裏切ったのだ。
そして決して敵でもない。

「いいのか?」

博紀が訊く。
当然の質問だった。
すると、グルルモンは少し空を眺めるように上を見て、一回息を吐くと語り始めた。

「俺は・・・この森にすむ普通のデジモンだった。純粋に本能的にデジモンがデジモンらしく生きるように生きていた。だが・・・あるときそれは現れた。一体の邪竜型デジモンを連れ、この森から『光』を奪った。おかげでこの森はこんなありさまだ・・・それだけでもうんざりしていた。だが、デビドラモンは、この森のデジモンを変えていった。デジモン達に森を支配するように命令した。成熟期がその仕事を任された。成長期のデジモンは、邪魔者扱いされ、惨殺されるかそれが嫌で逃げるかのどちらか。もちろん反抗するものには奥の手があった。デビドラモンが仕えている完全体のデジモンがきて、デジモンたちのデータに影響を与えた。俺はそうならないうちに凶暴な風貌を装った。そのおかげで今こうしていられる。」

長々とした話は終わった。
知己は話を聞いてこそいるが、内容の整理にあと数十秒かかるであろう。
そして理解できたほかの3人は、当然質問する。

「デビドラモンの上がいるのか?いるとしたらそいつは誰だ?」
「さっき説明したとおり、この森の侵略者の親玉がいる。だが、それが誰かはわからん。完全体ということしかな・・・」

条が質問するが、それ以上の情報はグルルモンもわからなかった。
続いて博紀が、

「その完全体デジモンがどういった方法でデータに影響を与えるか詳しく説明してくれないか?」
「・・・それもわからん。うわさでそういう話があってな。もちろん最初は信じなかったが、よき仲間だったやつも変わってしまっていたからな・・・無理やり信じさせられたようなもんだ。だからそれ以上はわからん。」

グルルモンでもやはりわからない点も多かった。
条は時間がないことを気にし、

「そうか・・・いろいろありがとうな。俺達はもう行くよ。」

と別れを告げた。

「パートナーが戻ったらここにこい。まだ用がある。」

別れざまにグルルモンがそういった。
よく理由はわからないが、とにかく行こうとは思った。

そんなことを考えているうちに、すでに元のエリアに帰ってきていた。
子供達はパートナーデジモンの元による。

「ああ・・・」

まるでブロンズ像のように動かない。
だが、解決策があることを思い出し、すぐ冷静になる。

「博紀、ディスクを。」

博紀は無言で条にディスクを投げ渡す。
条はそれを受け取ると、あることに気づく。

「あれ・・・何も起こらないぞ・・・」

条はディスクを振るなり、ブイドラモンたちに触れさせて見るなどするが、何も起こらなかった。

「まさか・・・ここまできて使えないの?」

真希が不安そうに言う。

「く・・・なんで・・・駄目なんだ・・・?折角・・・戻れると思ったのに・・・」

条が悔しさをこめて言う。その声はだんだん震えてきていた。
そんなときだった。
ポケットに入っていた小型機械のようなものが光りだした。

「おい・・・条・・・」

条は知己に言われて自分の機械が光っているのに気づいた。

「まさか・・・これ・・・」

条がその機械にディスクを近づける。
すると、ディスクは白く光、その光が収まると、そこには薬草のようなパッケージがある試験管のような容器が5本合った。
容器には液体が入っていた。

「みんな、これを。」

条が紫色の液体入りの容器を3人に渡す。
そして4人は自らのパートナーデジモンに、その容器の中の液体をかける。
すると、0と1の帯がデジモンたちを覆い、中で石のデータから再構成されていく。

「ああ・・・」

0と1の帯が消えると、そこには石になる前の体制のままのパートナーデジモンがでんと構えている。

「ありがとう・・・」

デジモンたちは言葉を発したことにより、石化が解けたことを子供達は認識した。


ただそこには、一つの発光源、モニターディスプレイがあるだけ。
その光によって、ところどころに木の根が見える。
だが、天井や床にはしっかりフローリングされている。
そんな空間に、デビドラモンがくるなり、口調を改めこういった。

「ご報告します。」

デビドラモンのその言葉で、デジコアを剥き出しにした杖を持ったデジモンは顔をデビドラモンに向ける。

「やつらを石にしてきました。ただ、ちょっと遊びも兼ねてましてね。やつらに石化を解くすべを教えましたが、私が戻る間に石化を解かなければやつらは死ぬのみ・・・今から行くのが楽しみでありません。」

「ホホウ・・・お前モマタ面白いコトガ好きダナァ。モシ奴らガ生きてイタラ、ココマデ誘導シテ来い。」
「分かりました。では、失礼させていただきます。」

デビドラモンは、また子供達がいる元へと戻っていった。

一方子供達は、パートナーデジモンの石化をといた後、グルルモンのエリアに向かっていた。
デジモンたちは、戦闘で石化されたのもあり、成長期の姿になっていた。
その途中のことだった。こちらに向かってくるデビドラモンが見えた。
エレキモンは、その姿を唱えるとすぐさま必殺技を放っていった。

「スパークリングサンダァァーッ!!」

渾身の力をこめて発生させ強力にした静電気を飛行しているデビドラモンに向かって飛ばす。
デビドラモンはそれに気づき、体を方向転換させ、それをよける。

「ダークネスギアッ!」

ハグルモンは二つの歯車を飛ばす。
だが、距離がありすぎ、簡単に避けられてしまう。

「く、ちょこまか動きやがる野郎だ・・・」

知己が不機嫌そうに言った。
その時だ。デビドラモンは行き成り向きを方向転換させ、先ほどの道を戻っていくようだった。

「何やってんだ・・・あいつ・・・」
「さあな・・・どうする?条、追うか?」

「俺の背中に乗れ。」

グルルモンが突然言い出す。まるですべてを察したような顔である。

「どーした、いきな・・・」
「頼むぞ。」


知己の言葉をさえぎって条が言った。
知己は気づいていないが、グルルモンの顔が分けありの様な気がしたのだ。

「しかし・・・乗れるのか・・・?」

そんな博紀の心配は無意味だった。
グルルモンに4人と4体を乗れるか少し心配だったが、乗って見れば何とか乗れた。
そしてグルルモンは子供達が乗ると、すぐさま走り始める。
時折デビドラモンの位置を確認していった。

(一体・・・あいつは何をしようとしているんだろか・・・)

子供達とデジモンたちは、そんなことを思いながら、グルルモンの背中で揺らされていた。

     続く