涼しい風が通っていく。
清清しい気分。全員がそうだった。

博紀が帰ってきたあと、簡単ながら食事をとった。
最初は、条が少し不安を覚えたが、知己が横で美食家のように味を語りだした上、「ま、小説のデジモンでも普通に食べてたし・・・」と、博紀も食べ始める。真希の方を振り向けば、いつのまにかとっくに手を出していた。こうなったら、と思い、条も食らいつく。子供達は久しぶりに果物などの甘いものを食べた。そんな気がした。
満腹にはならなかったが、十分気分は満たされた。

そして、その後もまた歩く。
荒野からまた徐々に草木が見えてくると、デジモン達が「もうすぐだ」と、うれしそうに言った。
また少し歩く。緑色が段々と見えてくる。
いずれは、森の面積が遠くでもかなり広いことが分かるようにもなる。
おそらくファイル島のフリーズランドぐらいはまずある。

「あのぐらい大きさあれば、当分食料には困らないな。」
「あぁ・・・それと、食料を貯蔵するためのものもな。どっかに村ぐらいあるとおもうし、そこで情報でも集めようぜ・・・」
「そうね・・・そういえば、この前まで、ただいつ食料が尽きるかしか頭になかったから、そんなこと考える余裕なかったものね・・・」
「とにかく、腹がぁー・・・」

真希の言ったように、子供達に今までこれからのことを考える余裕がなかった。
それよりも、これからがあるのかどうかさえ不安だったのだから。

森に入り口なんてないのだろうが、デジ文字で、「フォレストタウン」とかかれていた。
ディーアークで勉強し、デジ文字を読める博紀は、即デジモン達に質問した。

「森の町か・・・森の中は町になっているのか?」

ハグルモンが答えた。

「い〜や、森が広すぎて分からないんだ。ただ、昔から森にいたデジモンは、たまに建物を見かけたような気がするとか・・・」
「・・・まあ、とりあえずそれも落ち着いてからすればいいか・・・」

子供達は、そのまま森へ入っていった。
『入り口』あたりは、日光が差し、とても明るい印象があった。
だが、進むにつれ、「暖かい森」は、「物騒な森」に変わってきた。

「なんだか・・・変だわ・・・」

フローラモンが、植物の姿をするデジモンのせいか、すばやく何かを感じ取った。

「・・・なんか・・・心の中にもやもやっと・・・」

野生育ちといわんばかりの格好のベアモンも以上を感じ取る。その後、エレキモンもハグルモンも異常に気づく。

「何が変なんだ?確かに、気にさえぎられて日が薄いけど・・・」

この森の感覚がわからない条は、そういう。
だれだって、初めての体験をするときには、その第一印象がずっとその事柄のイメージとなるものだ。
だが・・・

「いいや、違う。いつも温かい感触なのに、寒い。」
「なんか・・・昔と変わってる・・・」

デジモン達が何かを感じ取りながら話す。

そして、その次だった。
まわりの光が以上になくなっていく。
闇だ。周辺が暗黒へと変わる。

「な、何だー!?」

食べ物を探していた知己も、思わず声をあげる。

すると、どこからともなく、無気味な少し高めなあざ笑う声が聞こえてくる。

「キャッキャッキャ!ノコノコ勝手にオレ様の縄張りにはいるんじゃなぁぁ〜いっ!!」

高慢な態度だ。
しかし、声からすると、あまり強者というイメージはもてない。

「・・・間抜けそうなやつがまた一人現れたもんだ・・・」

博紀が独り言のようにそうつぶやく。しかし、それはしっかり相手の耳に届いている。

「なんだとぉ〜?俺のこの素晴らしい姿、見せてやるぅぅ!!」

そんな声が聞こえた直後、条たちの頭上を何かが通過、その後過ぎ去ったものは、10mほど離れたところで浮遊している。
その姿は、大きな目(恐らく複眼)、二対の羽、細いからだ、胸から生えた6本の足、そして前足についた爪・・・

「トンボ・・・か・・・?」

条がぼそっとつぶやく。

「違う!俺はオニヤンマグループ首相、ヤンマモンだ!!」

「は?・・・・」

その後13秒ほどの沈黙。
ます子供達がおもったことは、「こいつえらそうにしながらかなり貧弱そう」そして「っていうかオニヤンマグループって何だ?」のふたつである。

「え〜と、その、なんと言うかよ・・・お前は、俺たちを倒そうとするわけ?」
「ッたりめ〜よ、」
「そんな弱そうなのにか?」
「っるせぇ〜!いくらお前らがデジモン4体いたってどうでもいい。あとの4匹は何だ?新種か・・・?」
「・・・3択で答えろ。『八つ裂き』『リンチ』『怒り任せにタコ殴り』さあ、どれだ?」
「はぁ?何いってんの?あ、お前らの希望か。ギャハハァツ!」
「・・・あほじゃないのかしら?というか、救いようのないあほのようね。そう、あほよあほ。」
「アホアホ言うな!!アホ!」

子供達は分かった。
口げんかを求めたら、攻撃もせずに、しかも返事もかなり低レベルである。
こんなやつが、成長期でのバトルやトレーニングで鍛えられた成熟期とはとても思えない。

「とにかく・・・このまま立ちふさがって命乞いしようとしてもデリートされるのと、今のうち逃げる。お前にそれは任せるぜ。まあ、俺は後者を選んでほしいがな。」
「へっ、戦わなくてすむからか?」
「いや・・・てめえみたいな野郎と戦って無駄にデジモン達の体力消費したくないんでね・・・」
「なにぃぃぃ〜!」

流石に頭にきたのか、エレキモンたちに攻撃を仕掛けようとする。

「へん、かかってこいやぁ!」
「雑魚、トンボ、貧弱!!」

デジモン達も言いたいほうだいいって挑発する。
もはや子供がからかわれているレベルである・・・

「なめるなぁ!」

ヤンマモンが前足の爪を振るう。
それをデジモン達は避け、よけられバランスを崩れたところを狙う。

「スパーグリングサンダァーッ!」
「ダークネスギアッ!」
「アレルギーシャワーッ!」
「小熊正拳突きっ!」

全員の必殺技があたる。

「ぐわぁぁ!!」

ヤンマモンは苦痛の声をあげる。

「くそう、遊んでやろうとおもったが、もう終わりだぁぁっ!!」

そう言うと、ヤンマモンはからだから黒い衝撃波のようなものを出す。
すると、なぜかデジモン達の動きが止まった。

「う・・・」
「体が・・・」
「動かない・・・」

「どうしたんだ!?」

驚いた条は、デジモン達に聞いた。

「わからない・・・やつが何かしたんだ!!」

デジモン達から答えを聞き、ヤンマモンの方を見ると、余裕顔でさっきから笑っている。

「く、てめぇ、何をしやがった!!」

少し脳天に来てる博紀が、口調を荒めて言う。

「ここは、俺がデビドラモン様にもらった、いわば俺の所有地!その範囲なら、敵の動きを止めるなんて簡単よ!」

「何?」

一体デビドラモンとは、そして動きを止められたとは・・・

「まあ、自然の中の環境になじみやすいんだったら、この土地に対する免疫が出来ているからな。だからそういうデジモンだけ動ける。でもどうせお前らも自然の環境のデジモンなんて・・・」

ヤンマモンは話している途中、威力は強くないものの、ドゴッ、と背後を殴られた。
慌てて後ろを振り返れば、フローラモンが花の腕でヤンマモンを殴っている。

「ぐ、貴様も自然の環境のデジモンとは・・・!」

フローラモンは、そのままチャンスを逃さず、必殺技を繰り出す。

「アレルギーシャワーッ!」

敵から戦意を奪う粉を、ヤンマモンにばら撒く。
しかし、簡単に羽ばたきで粉は振り払われてしまう。

「ふはははぁ!動けたやつがいたことは予想外だが、所詮成長期!俺様の敵じゃぁないっ!」

ヤンマモンの前足の引っかきで、フローラモンが吹っ飛ぶ。

「ぐふっ・・・!」

「貴様の力なんて所詮そんなものなんだっ!」

「フローラモン・・・」

フローラモンはよろけながら立ち上がる。
緊張した構えを取り、その姿はまだファイティングスピリットがあることを証明していた。

フローラモンは考える。
いつも自分は敵デジモンが出ても役に立てない・・・
攻撃力もないし、必殺技だって戦闘には不向きだ。
いつもいつも役に立っていない。
そして今、自分だけが動ける。やっと役に立てるとおもった。
だがしかし、そんな簡単に行くほど現実は甘くなかった。
成長段階に差がある・・・
こんなんじゃあ勝てるはずがない・・・
何で他のデジモンは進化できるのに・・・
何故進化できない?
理由なんてわからない。
元々進化は時間をかけてやるものだ。
なのに、ベアモンやエレキモン、ハグルモンはどうだろう。
特殊とでも言うのだろうか?
だがわたしだけが一般的なのか?
もっとバトルとトレーニングを繰り返し、力をつけなきゃいけないのか?
何でわたしだけが?
いいや、そんなはずはない。
一緒に行動していたエレキモンたち、これは偶然とは思えない。
真希たちも言っていた。きっとここに来たのもフローラモンたちに出会ったのにも理由がある。
そう、理由がある。根拠がある。
きっと、進化できる。
力がほしい。こんな生半可な威力しか持たない花の手なんかじゃなく、硬い乾いた木のような腕がほしい。
そう、なれるはずだ。

同時に真希も同じようなことを考えていた。
別に戦うことが怖いわけじゃない。
でも、なぜかいつも後ろめたい気持ちが働いてしまう。
それが自分達の行動を規制し、フローラモンにも迷惑をかけているのかも・・・
フローラモンは傷つきながらもまだ戦おうとする。
何故?デジモンの本能?
でも、あの目は何かを持っている。
きっと私達を守ろうとしてくれている。
その気持ちにこたえなきゃ・・・
力を与えたい、フローラモンが満足するような力が。
私だけしか持っていないのかもしれない、力を。

真希の手にはいつのまにか機械が握られている。
それは「思い」と同時に、輝きだす。

DPLUSEVOLUTION

フローラモンの体を白い光が包む。

「フローラモン進化ぁあああああああ!!」

「ウッドモンッ!!」

乾いた大木のようで、それでいていかにも強度がある腕。
フローラモンは進化をすることが出来た。

「く、たかが進化したからといって、俺に勝てるかぁっ!」

ヤンマモンは旋回しながらウッドモンに突進していく。
しかし、ウッドモンは、その4本の足を巧みに使い、素早くかつ複雑な動きをして、ヤンマモンの攻撃をよける。
そして、隙を突き、背後にその腕を振り下ろす。

「ぐぁわっぁっ!」

先ほどよりも明らかに威力が上がっているということを、手応えで実感する。
その証拠に、ヤンマモンは胴打たれた胴を起こすのに苦労している。
そして、勝負の分かれ目がそこだった。
ヤンマモンがひるんでいるうちに、ウッドモンが素早く移動。
そして加速をつけジャンプし、両腕を勢いをつけて伸ばす。

「ブレンチドレインッ!!」

ザシュウッ!
という音を鳴らし、ウッドモンの腕が、ヤンマモンの羽を、そしてその下にある首から頭部にかけての肉体を貫き、抉り取る。

「ギヤァァアアアアァァァァァァアー――――ッッ!!!」

悲痛の声がする。ヤンマモンはデリートされていった。
それとほぼ同時に、ウッドモンはフローラモンに戻り、真希の元に駆け寄る。

真希はフローラモンを抱きしめ、フローラモンは真希を抱きしめる。
言葉は交えなかったが、それで十分二人の思いは通じ合った。

「おい、見ろよ・・・」

博紀が指差す方向。
むこうのほうから、暗い森のような姿のデータに、いかにも暖かい雰囲気の植物達にデータが書き換えられる。

「ディープロジェクトを思い出すぅー・・・」
「知己、お前しばらく黙れ・・・」
「まーそういうなって。」

恐らくここの支配主のヤンマモンが死んだからだろう、という仮説を後ほど立てた。

その仮説を立てるまで、ずっと森の景色を見ていた。
フローラモンと真希は、この温かそうな森の雰囲気を、今の自分達の心に当てていた。

しかし、この森に隠された事実を、誰も知らない・・・

   続く