草原だった地面に、まばらに草の生えない部分が見えてきていた。
荒野でも近くにあるのだろうか?
しかし、まだ森は遠い。

ランクスモンを撃退して5時間・・・
だいぶ時間はたった。
子供たちは疲れを取りながら歩くが、やはり体力は一向に回復しない。

「本当につらいな・・・」
「こんなんじゃあ後何日かかるのかしら・・・」
「きついよ・・・やっぱ・・・」

大人でもこれだけ歩けば疲れるであろう。
ましてや子供だ。後1時間も歩けば、しばらく足は言うことを聞かなくなる。
そんな状況だ。

「まー、がんばろうぜ!」

知己は持ち前の精神テンションで皆に語りかける・・・

「とりあえず休憩・・・」

条が言う。
確かに知己はずっとこの堅苦しい空気と絶望感にあまり触れないようにがんばっている。
しかし、それは時折マイナスに働いてしまい、皆を怒らせる原因にもなった。

「おいおい・・・早く行こうぜー?」
「無理言うなよ・・・」
「お前一体体内どうなってんだ?一度見てみたいもんだぜ・・・」
「どうすればそんな考え方できるのかしら・・・」

知己も実はかなり疲労がたまっている。
しかし、知己の性格からすれば、絶対何とかなるという精神の強さから、どこかに希望があると信じ続けられるのである。

「みんな疲れてんだ・・・お前の言うことも分かるが、ここはいったん休もう。」

知己はしぶしぶ条に従うことにする。

(ちっ・・・俺だってそれくらい考えてらぁ・・・)
(ふぅ〜・・・まあ、俺は長いこと親友だから慣れてるけどな・・・)
(俺とまるで性格真反対だな・・・何か先が心配だ・・・やれやれだ)
(ホントマイペースね・・・まあ、よく言えばタフにつながるけど・・・)

全員がくたくたになった体を休めながら考える。
そんなときだった。

「かなうさ〜かなう〜発火点はもうすぐだぜ〜♪できるさ〜できる〜爆発して見せるんだ〜♪」

急に和田光司の「FIRE!!」が流れ出す。
これを流せるのは、ただ一人・・・必要かどうか断定しにくいものを持ってきた・・・

「知己・・・ちょっと待って・・・いきなり大音量は心臓に悪い」
「それにしても、よくずっと歩くのに無駄な荷物持ってきてるなおい・・・」
「でも、いい曲よね・・・」
「だろ?だろー?」

多少前より雰囲気が明るくなった。もちろん知己独特の考えだ。
歩いてるときからこの案を考え、どの曲を流せば元気付くかをずっと考えてたのだ。

「さて・・・そろそろ行くか・・・」

条が音楽によってやる気を出す。

「んだな・・・ちゃッちゃといこうぜ・・・できる・・・出来るんだもんな・・・そう決めて俺達は歩いてたからな・・・元々・・・」
「そうね・・・できるかぎり・・・いや、やり遂げましょう・・・決めたことは・・・」

知己は失敗もするが、成功の効果はかなり大きい。
失敗を恐れずにやることは、みんなの精神養うことにつながっているのだ・・・

先ほどのようないざこざはなく、みんなみんながそれぞれ一歩一歩重くなっていく足を動かしていく。

(ほんと・・・昔から知己はムードメイカーだよな・・・ほんと・・・)
(ただの馬鹿じゃなかったんだな・・・がんばって自分も厳しいのにみんなのことを考えている・・・もっと早く気づけばよかったな・・・)
(自分なりにがんばっているのね・・・自分の身を削って・・・失敗を恐れず・・・)

知己への考え方が次第に変わる。
馬鹿じゃあない。元気なんだ。
おきらくなんじゃあない。忍耐があるんだ。
そうおもっていた。

「それにしても・・・なんか寒くないか?」
「そういわれてみりゃー・・・そうだな・・・」
「気温低くない・・・?フローラモン、ここら辺ではいっつもそうなの・・・?」
「いや・・・確かに荒野は荒れている場所ではあるけど、気温は普通よ・・・」
「んじゃあどうして・・・」

条があたりを見渡す。そしてこッちへ向かって飛んでくるものを見て条が叫ぶ。

「みんなっ!伏せろぉーーっ!!」

一瞬全員は状況がつかめなかったが、条の慌てた声で伏せなきゃいけないことはわかるため、慌てて伏せる。
頭上を石みたいに硬い雪玉が通過する。
その後、また雪玉が飛んでくる。しかも30発ほどだ。

「スパークリングサンダー!!」

エレキモンはすぐさま必殺技を出す。強力な静電気の電熱で、雪は溶ける。しかし、一撃放っただけで溶かせる雪玉はせいぜい7発か8発・・・のこりの20発ほどは必殺技を出すために先頭にいたエレキモンに直撃する。

「ぐわぁあぁああっ!」
「エレキモンッ!」

条が駆け寄る。

「畜生・・・俺達が進化して戦わなきゃ・・・いけないのに・・・」

悔し泣きしそうな声でエレキモンが言う。条はその声を聞き、自分も悔し泣きしそうになる。

「おららららぁぁぁああ!!」
「うおぉおおおおおおお!!」
「はぁああああああああ!!」

ベアモンは、硬い雪で手を痛めないように革ベルトでしっかり拳を補強し、雪玉を殴り落とす。
ハグルモンも、次から次へとどこからかは分からないが放たれる雪玉に、自分の体内でドンドン歯車を生成し、それを当て雪玉に応戦する。
フローラモンは、手からクッション代わりに大量の粉を積もりさせ、ちりも積もれば山となるといった感じで、防御壁を作って全員を雪玉から防いだ。

「く・・・一体どこから投げてきているんだ・・・?見てみるといつの間に・・・」
「いいや違う。投げているんじゃあなうい・・・雪がやつ自身だ!」
「何?つまり、やつはさっきエレキモンがやったみたいに溶かさないと無駄というわけか?」
「ああ・・・しかも、こんな芸当が出来るのは、雪という言葉が名前にある、ユキダルモンしかいない!」

その言葉が出た瞬間、雪は一点に集まり、一体のデジモンとなる。

「小熊正拳突き!!」
「ダークネスギア!!」
「アレルギーシャワー!!」

三体が同時に必殺技を出す。
いくら相手が成熟期とはいえ、三方向からの同時攻撃はよけれないと考えたのだ。
しかし・・・

「絶対零度パンチ!!」

ピシィィィンッ!
その一つの技で状況が一瞬にして変わる。
絶対零度・・・約−270度という、窒素さえも固体で見える温度をさらに下回る温度である。
その温度の状態では、全ての生物は運動を止める。それほどの温度だ。
その絶対零度によって、空気中にある水蒸気は一瞬にして水、そして氷となる。
さらに、伝熱による効果で、氷の壁は1秒もしないうちに厚さを増す。つまり氷のバリアーだ。

「ぐあぁぁっ!」「ぐ・・・ぁ」「ぐはぁあっ!」

ベアモンの革ベルトで補強した攻撃は、氷のバリアーに触れたことで、まず革ベルトが一瞬でポテトチップスを指二本で砕くように、ひびが入りながら砕け、そのごベアモンの手に温度は伝わり、ベアモンの手は凍る。
ハグルモンの放った敵の機能を狂わす歯車二つは、鋭い路面の氷のバリアーに跳ね返され、放ったときよりも格段に加速して一つがハグルモン自身、そしてもう一つはフローラモンに直撃する。
フローラモンの放った敵の戦意を失わせる粉は、一瞬にして氷となって地面に落ち、効果がない。
つまりはほぼ全滅状態である。
エレキモンは石のように硬い雪球を20発以上食らったため、当然今すぐ戦闘を出来る状態ではない。
ハグルモンとフローラモンは、成長期の必殺技とはいえ、すべるような路面によって、加速して威力を増した攻撃をもろに食らってとても立てる状況ではない。
ベアモンはまだ戦闘こそ出来るものの、片手が凍り、しかも成熟期相手で勝ち目はほぼない。

「ハグルモン!」「フローラモン!」「ベアモン!」

博紀、真希、知己はパートナーデジモンの下へ駆け寄る。

「ベアモン・・戦えるのは・・俺達しかいない・・・」
「分かってる・・くそう・・・俺がもっと力があれば・・・」

ベアモンは自分の力のなさを恨む。
知己もまた、いつもハイテンションの癖に、今はこんなざまかという自分に嫌気がさす。

「ちくしょぉおおおおおおお!!」

負けたくない、俺に力をくれと言う二人の気持ちが一緒になり、知己とベアモンは同時に叫ぶ。
その瞬間だ。知己の強く握った手の中に何かが託され、それが強く光ったのは・・・

DPLUSEVOLUTION

「ベアモン進化!!」

「グリズモン!」

ベアモンが力強く叫ぶと、そこには光に包まれたバトルベア(格闘熊)がいる。

「ベアークロォォッ!!」

グリズモンが力をこめてそういいながら、氷のバリアーに自慢の爪を叩き込む。
すると、氷の壁はバリィンンッ!という音をたてて敗れる。

「絶対零度パンチ!」

氷のバリアーを破られて動揺したユキダルモンはすぐさま撃退しようと必殺技を放つ。

「当身返し!!」

グリズモンは、待ってましたといわんばかりに、攻撃を凍らないギリギリの距離でよけ、必殺のカウンターを思いっきりぶち込む。グリズモンの爪が、ユキダルモンの体をおもいっきり貫通する。敵の攻撃のスピードプラスグリズモンの攻撃のスピードによって、ユキダルモンとグリズモンの爪に高い温度で摩擦熱が生じる。

「ギャァアアアアアアアアアアアアア!!」

ユキダルモンは溶けながらデリートされていった。

「やった・・・」

知己が無意識に叫ぶ。そして、退化したベアモンが走ってくる。
当然凍り付いてたてはユキダルモンを倒したため、元に戻っている。

「やったぜ知己〜〜!」

ベアモンはそのまま体当たりする。

「この野郎ー!疲れてるくせに・・・」

知己は怒りよりも、ベアモンに対する感謝の気持ちが強かったので、手をポンとベアモンの頭に乗せる。

「ふあぁぁ〜〜〜」

ベアモンは大きなあくびをする。
寒さで分からなかったが、もう夜だ。

「やばいな・・・もう夜だ・・・」
「どうする?これから?」
「このまま行くか?」
「それは無理だっつーのに・・・夜は敵に襲われる可能性が高いぜ・・・」
「デジモン達の疲労もたまっているしな・・・」

ちらりとデジモン達を見ると、かなり疲労している様子がわかる。

「仕方ない・・・今日はここで寝るか・・・」
「んじゃあお休み・・・」

全員がパートナーデジモンの下に行って寝る。
寝る前に、全員がパートナーデジモンに「ありがとう」といったのはいうまでもない。

これからはさらに戦いが厳しくなることに、子供たちは気づいていない。

      続く