歩き始めて早10時間・・・
相変わらず無限のように広がる草原・・・
子供たちとそのデジモンたちは森を目指して歩く。

「森って・・・まだぁー?」
「あと数時間歩けば森を出て荒地に着く。そしてその荒地を越えれば森よ・・・」
「長いわね・・・」
「しかし・・・この暑い気候は何だって・・・これじゃ歩くのもかなり疲れる・・・」
「そういうなって・・・もうすぐだしよぉ・・・元気出せよ、博紀・・・」

さすがに10時間をずっと歩けば誰でも疲れる・・・
ましてや子供だ。疲れて愚痴の一つや二つ言いたくなるのも当然だった。

「しかし・・・引っかかるな・・・」
「何がだ?条。確かに蒸し暑いが・・・」
「いや、そうじゃねえ・・・おかしいだろ・・・俺達デジタルワールドにいるのに・・・何でデジモンたちとで会わねぇんだ?」
「お前にしては知的じゃん!」
「知己・・・お前に言われたきゃないよ・・・」

そんな会話の中にデジモンたちが入ってくる。

「そういえば俺達も見てないぜ・・・」
「最近めっきり減ったなぁ〜・・・」
「というか・・・消えたといっても過言じゃないわよ・・・」
「本当に・・・いつのまにか・・・」
「それって、神隠しじゃないの?」
「時空乱流に流されたとか・・・」
「なあ、神隠しって何だ?」
「つか話題に追いつけねぇ・・・」
「ワームホールとかそういうことか?」

考えれば考えるほど疲れがたまってくるような気がした。
ただでさえ疲れているのにさらに疲労がやってくる・・・

「ちょっと休憩にしよう・・・」

条がそういい、みんながその場にしゃがみこむ。
デジモンたちはなれた道でへっちゃらなのだろうが、子供たちにとっては疲労だった。

「今何残ってるっけ?爽健美茶ね〜の?」
「食料はどれくらいだ?」

便りになるのは知己が持ってきた駄菓子や飲み物だけ・・・
しかし皮肉にも、駄菓子が多かったことはむしろ水分の減少を早めた。
出来るだけ飲まないようにしても爽健美茶2Lの1本はすでにただの空のペットボトルと化していた。

「疲れるな・・・後残っているのは固焼きせんべい8枚と乾板5つにポテチ一袋・・・」
「これで持つとは俺は思えない・・・」
「なんとかなるんでね〜の」
「あとどれくらい?フローラモン。」
「あと大体、この調子で休憩をはさんでいけば、1日ぐらいかしら・・・」
「1日か・・・一日乾板一つ程度になっちまうな・・・」
「元々死活問題だからしかたねぇ〜が・・・」

そんな会話の中で、知己がふという。

「それより、マジ暑くないか?ゆでだこになっちまうよ・・・」
「のんきだな・・・てめぇは・・・」
「でも、本当に暑いぞ・・・」
「熱中症になんかかかんなきゃいいけど・・・」

ボァアッ
という音をたて、あたりは突然緑の平原から紅蓮の炎と化す。

「な、なんだっ?!」
「わからない・・・日本武尊の気分が少しは味わえたって感じだ・・・」
「・・・いつのまにか回りが・・・」
「何が起こってんだ・・・」

子供たちは困惑する。

「みんな!こっちだっ!」

エレキモンを初めとするデジモン達が子供たちと逃げる。
しかし、何故いきなり発火したかはまだ分からない。
それがもうすぐわかろうとしていることも・・・


少しはなれた場所で子供たちとデジモン達は休んでいる。
知己と向かい合って3人の子供、そしてそれぞれにパートナーデジモンがついていた。
運良く行き先に炎が広がっていなかったので、遠回りすることはなかった。

「疲れた・・・本当に疲れた・・・」
「燃えたよ・・・燃え尽きた・・・」
「お前ホント気楽だな・・・」
「まあ、知己だもんね・・・」
「しかし、何で発火したか、俺達にもわかんね〜ぞ」
「植物が燃えるのは当然だけど・・・急に燃えることはまずないわ・・・」
「そうか・・・やっぱりそうだよな・・・」

やはりいきなり火の海になった理由はわからない。
しかしひとつだけ子供たちの頭にある考えが浮かんでいた。
自分たちは何者かに命を狙われているのではないかという・・・

「んじゃあ、そろそろ行こうぜ」

条が言う。もはやリーダーシップをとる条の声もあまり元気とはいえない。
みなはなかなか立ち上がろうとしない。
しかし、だるそうに首を上げた瞬間、知己意外はぞっとする。

「ガルルルルルルルルゥ・・・」

真っ赤に燃える狼のようなデジモンゆっくりと近づいていた。

「知己・・・」

博紀はただ知己の名前しかいえなかった。それ以上言いたくなかったのだ。
真希は言葉さえ出ない。言葉を出そうにも何をいえばいいのか分からない。

条は親友が目の前で八つ裂きにされるところは見たくない。
そう思った。
そして条は驚くべきことを言う。

「みんな・・・逃げろ・・・知己もだ・・・」

ランクスモンはもうすぐそこにいる。
逃げるには今しかない。そう思ったのだ。
恐らく発火もこいつのせいだ。しかし、こいつは餌に飢えてるとしたら一人を食えば十分だろう。
みんなで逃げたら全員が危険になる。
だったら俺が犠牲になってやる。元々最初の場所にいれば安全だったかもしれないのに、森に行こうと進めたのは自分の責任だ。
ならば・・・俺が・・・

条はその場からランクスモンのほうに走り出す。
武器なんて何ももっていない。
ただみんなに「逃げろ!」と何回も叫び、覚悟を決めて飛び込んでいった。
他のやつらの逃げる時間を少しでも稼いでやろう。そう思ったのだ。

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

雄たけびを発し、ランクスモンに飛び込んでいく。
みんなは条を犠牲にして逃げるのにあまり同意できなかったが、ただ無駄死にさせるわけにもいかなかった。
しかし、一人だけ、条のもとへ走っていくものがいた。
エレキモンだ。
エレキモンもまた、森のことを話してみんなを危険にさせたことに責任を感じていた。
条もきっとそうだとおもい、自分も飛び込んでいく。

「条おおおおおおおおおおおおおおおおお」

その瞬間、ランクスモンに突撃する条の手のひらに何かがあった。
いや、たくされたと言うべきだろうか。
真ん中にディスプレイがあり、周りにボタンがあった。
そしてほぼ同時にエレキモンが追いつく。

その時だった。

条の手にあったものは突然強く輝きだした。
そしてその瞬間、エレキモンの体が白く輝きだす。
その光はすでに離れていたほかの子供たちにも見えるほどだった。

DPLUSEVOLUTION(D+EVO)

条の持つ機械のようなものの画面にそう表示された。

「エレキモン進化ぁぁぁあああああ!!」

エレキモンが無意識にそう叫んだ。

「ブイドラモン!!」

エレキモンは、哺乳類の姿から、力強そうな蒼い竜になっていた。

「今の光・・・なんだ・・・?」
「行ってみましょう」

知己、博紀、真希の3人は、パートナーデジモンを連れて条のもとへ向かう。

「ブイドラモン・・・?エレキモンが進化したのか・・・」

条はランクスモンとにらみ合うブイドラモンを見ていた。

「グァルルルゥゥ!」

先手に走ったのはランクスモンだった。
ランクスモンは、力強そうな足で地面を蹴り、ブイドラモンに襲いかかろうとした。

「遅い!」

ブイドラモンはそれをアッサリジャンプしてよけ、空中で両手をしっかり固めてその拳を振り下ろす。

「ハンマーパンチ!!」

ドゴゥッ!
ブイドラモンの全体重をかけておろしたパンチは、ランクスモンの後頭部に直撃した。

「ぐわるぅぅぅ」

ランクスモンは、悲痛の声を上げる。
そしてブイドラモンは、すばやく動き、渾身の力を右手の拳にためる。

「マグナムパンチ!!」

ランクスモンも、首を振り、体勢を立て直し、ワイルド・ネイル・クラッシュを繰り出す。

ガツゥッ

鋭い爪と、鉄拳がぶつかり合う。
そして、バギィィンッという音をたてランクスモンの爪は、ブイドラモンの拳に砕かれる。

「グ・・・ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ブイドラモンは、ひるんでるうちに、どんどん打撃を与えていく。

「うおぉぉぉお!」

ドゴバギグシャバギィドグァ
こんな音を立てながら、滅多打ちにする。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!」

条が叫ぶ。
それと同時にブイドラモンは口から熱戦をはく。

「ブイブレスアローーーー!!」

熱戦はランクスモンに直撃し、ランクスモンは悲痛の声を上げながら、チリと化した。

「や・・・やった・・・」

条は思わずそうつぶやく。死ぬ覚悟はしたが、やはり死ぬことは恐ろしかったのであろう・・・
そして、ブイドラモンは敵を倒し、エレキモンに退化する。
条はエレキモンのもとへ駆け寄る。

「ありがとう」
「へへ・・・」

そんな時、博紀たちが来た。

「お〜い!」
「あれ?ランクスモンは?どこにいったの?」

今着たばかりのため、状況が飲み込めない真希が言う。

「エレキモンが・・・ブイドラモンに・・・」

条はそう答えた。

「え?進化したのか?すげーじゃん!」

知己は相変わらず楽天的思考をし、素直に驚く。

「俺達もなりたいな〜・・・なあ、博紀!」
「あ、ああ・・・」
「でも、どうしてエレキモンに戻ったのかしら・・・」

なぞは次から次に出てきた。

「人間もスタミナ切れれば走れなくなるのと同じじゃねえのか?」
「なるほどな・・・エネルギーの消費か・・・」
「だろうな・・・でも、あんまりめしくわせてねぇ・・・よな・・?」
「んまあ、俺達は元々あんまり腹すかねえからな・・・」
「でも、もし今度駄目だったらやベーし、デジモン達に全部飯食わせれば?」
「それはかなり無謀。つかその考え根本的に間違ってる。」
「あんたほんとに楽天的ね・・・」
「ふんっ、俺にとってはほめ言葉よ」
「何だ・・・こいつ・・・」
「とりあえず、これからはデジモン達の飯を多くするために少し考えたりしなきゃいけなえな・・・」
「だとするとやっぱり目指すは森か・・」

こんな会話をしているうちに、また子供たちは自然に歩き出す。
全ては生きるために・・・

    続く