一面広がる草原・・・
そこに4人の少年少女が佇む・・・
「ここ・・・どこだ?」
「本で読んだこともない・・・いや、小説で読んだことあるっけな。デジモンの。」
「まさか・・・ね・・・」
見たこともない景色に困惑する。
「来たんだよ・・・デジタルワールドに・・・」
知己が瞳を輝かせて言う。
「しかし・・・軽い気持ちでいたが・・・何だか大変なことになったな・・」
「知己が持ってきた食料で少しは何とかできそうだが・・・この先どうする?」
「夢であることを信じたいわ・・・本当に・・・」
「いいや!夢なんかじゃない!現実だ!本当なんだ!!俺達これたんだよ!遂に!!」
楽天的な一名を除く三人は、この先どうするか、どうしたら戻れるか、それ以前に戻れるのか・・・
いろいろな考えが頭を巡る。
博紀が口を開く。
「とりあえず・・・これが現実だとしよう。俺が見てきたデジモンでは、まず言えることは俺達が膨大な量のデータであること。そして、ウィルス種のデジモンに襲われたらまず俺達はかなり危険だということ・・・そして・・・もう・・・戻れないかもしれないこと・・・」
「俺達・・・これからどうなるんだ?俺が死ねば本当に俺は死ぬ。そして俺達の命を簡単に消し去ることのできるデジモンたちがたくさんいる・・・一体・・・何をどうしたらいいんだ?」
「これは夢・・・きっと夢だわ・・・」
「だから夢じゃない!これは現実なんだ!夢がかなったんだ!!」
ガシィッ!
「お前・・・俺は弟もいる・・・母さんも・・父さんもいる!!弟にはいろいろと悪いこともしてきた。母さんにも父さんにもいろいろ迷惑かけてきた。そして今死ぬ気になって分かった!!俺はみんなにお礼と謝罪をしなければならない!それに俺にも夢だってある!でも・・・このままじゃ・・・どうなるんだ・・・」
博紀が知己の胸倉をつかみながら言った。しかし、その博紀の腕を知己から条が放し、条が言う。
「確かにそうだ。俺だって家族には迷惑かけたし・・・謝ることもお礼を言いたいこともある・・・だが!『過去』を見るのは確かにいい!いろんなことを反省できる!!しかしだ!今この状況を理解し、『未来』に目をむけ、何かしようと思ってもいいはずだ!!死ぬってことは『未来』を捨てるってことだ!!違うか?!俺は『未来』を捨てない!『可能性』を捨てない!!」
「条・・・・・・そう・・・なんだよな・・・俺達が来ちまったもんは俺達で何とかしなければいけないんだよな・・・知己にあたったって何にもならない・・・むしろ協力して何とかするべきだよな・・・」
「ああ・・・いつものように冷静でいろよ。それが一番お前らしいんだからな・・・」
「ありがとう・・・条・・・」
一件落着。
「さて・・・これからどうする?とりあえず、みんなの意見を聞こう・・・」
条がしゃべりだす。しかし・・・
「ん?どうした?真希?さっきから震えてるけど・・・寒いか?」
真希の様子がどうにかおかしい。
「こ・・れ・・は・・・夢・・よ・・・そう・・・夢・・・」
体育座りをし、身震いをしている。
「夢?だから夢じゃないっつーの。頬っぺた抓ってやるか?」
知己が相変わらずマイペース。
しかし・・・
「しゃしゃるんじゃ・・・」
「ん?どうした?真・・・」
グワッシィ!
「ま、真希!!どうしたんだいきなり!」
「一体・・・?」
条と博紀は動揺する。
何故なら女子の真希が、男子の知己の首を片手でつかみ、宙に上げているのだから・・・
「ぐ・・・まぎ・・・いっだい何が・・・」
真希がさっきとは大違いな態度で語り始める。
「ふっふ・・・暗すぎるってのも問題だけど・・・明るすぎて調子に乗ってると・・・もっと問題よ!!」
「ギュッハァ!!」
メシメシと言う音を立てながら、真希が首をしめる力を強める。
「一体・・・いつも温厚でやさしい真希が・・・何で?」
「多重人格・・・それしか考えられない!!」
博紀が言う。
「幼いころ・・・きっと何かトラブルや大きなショックがあって、本来は一人に一つの精神にひびが入り、それぞれが成長していったんだ!アメーバが分裂して成長するように!!」
「多重人格・・・?つまり、今の真希は、裏の人格か?」
「ああ・・・真希はあまり自分の過去をしゃべろうとはしなかった。」
「そうだったのか・・・」
「しかし・・・やばいな・・知己が窒息死するだけじゃあなく、普段の真希がこのままでは・・・消える!」
「何?一体どういうことだ?」
「・・・もともと・・・精神の亀裂が入り、それぞれがある程度まで成長すると、どちらかが支配し、どちらかが支配される。これによって、表裏が出きる訳だ・・・恐らく、普段の真希は、裏の冷酷残忍凶暴凶悪な性格を必死で静めた。しかし、静めるといっても自分は自分・・・何か原因があると、裏が出てしまうんだろう・・・そしてだ。普段の温厚な真希がいる。そして裏の真希がいる。性格は真逆ほどだ。さて、本題はここだ。いつもの真希は温厚。これを+とする。そして、裏の真希は冷酷。これを−としよう。いつもはずっと+だが、今のように−になったとする。そうすれば、いつもの+の真希は、たちまち裏の人格に打ち消されてしまう。挙句の果てには支配されてしまう。そして、いずれは表真希は・・・崩れ去る・・・」
「そ・・・そんな・・・だったら!」
「ああ、ほっとける訳が・・・ない!」
二人は知己をつるす真希の下へ駆け寄る。
「おい、聞こえるか裏真希!!お前が普段の真希を占領するなんて、俺は許さんぞ!!」
「・・・うるさい連中だこと・・・」
真希は、そう言うと知己の首を更に強く締め上げる。
「グゥグッバァァ!!」
「と、知己・・・くそ・・・何でよりによってこんなときに助けられねぇんだ!!」
条は親友が苦しみ、友人が滅亡するというのに力になれない自分を憎む。
しかし、博紀は・・・
「おい・・・真希。お前・・・本当は精神力弱いだろ。」
意外だった。さっきまでこの環境になれずにヒステリック常態だった博紀が今度は冷静に話し始めるのだから。
「何を言うか・・・こいつをいつも支配している精神をならば何故通り抜けられる?」
「やはり精神力弱いな・・・」
「く・・・調子に乗ると、あんたもこいつみたいにするわよ・・・?」
「グァ・・・ァ・・・」
真希が知己の首もとを博紀に見せる。
「いいや、間違いなく弱い。一つはお前、今『武力』で俺を黙らせようとした。何故か?口で負けたくないからだ・・・そして二つ目・・・お前『うるさい』っつたよな〜・・・つまり無理やりねじ伏せて黙らせようとしている・・・これも口ではかなわないからだろう・・・こう考えると、お前は俺との口喧嘩から『逃げている』。そうだろ・・・」
「く・・・いいかげんにしないとこいつの首を・・・」
「今度は『人質』か・・・」
「!!・・・こいつ・・・」
「やはりお前は意識してなくても自然に自然に避けている。それは俺との口げんかで押されることを『恐怖』していることにつながる。だが・・・いつもの真希はそんなんじゃない・・・いつも明るく自分の暗い過去を必死に克服しようとしている!!お前よりもずっと精神力が強いんだよぉっ!!」
「!!・・・・・・」
博紀の叫びと同時に、真希がその場に倒れこむ。
そして、二人(知己は数分間安静しないと酸欠になるため倒れている。)は真希のもとへ駆け寄る。
「よかった・・・しかし、これでおきてもとの真希に戻っていればいいが・・・」
「まずしばらく裏は出ね―よ。その証拠に、裏ならあのままだが、今気を失っているってことは、さっきまで負担がかかってた表の真希に戻っているということ。これで大丈夫だよ・・・」
「ど、どりあえずいっげんらぐぢゃぐだな(とりあえず一件落着だな)・・・ごほっ」
「う・・・うぅん・・・」
「お・・・起きたか・・・」
真希が起き出したのに条が気づく。
「お、大丈夫か?真希?」
「みゃぎ・・・だいじょうぶが?」
「何が・・・?しかし・・・知己、あんた風邪ひいたんじゃないの?あれ・・・そういえば、私は、パソコンが光って・・・ここ、どこ?」
「いや・・・べつにそうじゃねえ・・・ゴホッ・・・ここは、デジタルワールドで・・・」
「(記憶が抜けてるのか・・・)まあ、とりあえず、これからどうするかでも考え・・・!」
条が言葉の途中で何かに気づく。
「ん?どうした?条?」
「もしもーし?大丈夫か?」
「硬直してどうしたの?」
条は口あんぐりといわんばかりの顔をして立っている。
「う・・・後ろ・・・」
条は口をあんぐりさせたまま、知己達の後ろを指差す。
「後ろがどうかし・・・!」
次に振り向いた知己も口あんぐり。
「一体何があるってん・・・!」
博紀も振り向けばくちあんぐり。
「三人とも、一体なんで・・・!」
真希も口あんぐり。
子供達が見たものとは・・・
4人が口を合わせて言う。
「デ、デジモン!!」
そこには4匹の成長期デジモンがいる。
「あわわ・・・やっぱここって・・・」
「デジモンだーっ!俺のパートナーデジモン!?」
「ギャ――ス」
「・・・かわいい・・・」
当然子供達は驚く。
そしてこっちを見ているデジモンが言い出す。
「おっす!俺はエレキモン!よろしくな!条!」
それは聞くからにエネルギーに溢れる元気な声。
「え・・・俺?」
その声に条は多少困惑する。
「うぃ〜す!知己!俺ベアモン。よろしくぅ!」
そしてその声は野生を感じさせるビーストヴォイス。
「お前が俺のパートナーデジモンか!これから頼むぜ!!」
知己はそれに勝るも劣らぬ気合ヴォイスで返答。
「博紀ぃ〜!俺、ハグルモン!これからよろしくな!」
どこからどうやって声を出されているか分からないが、外見にあった声を出す。
「え?ああ、うん・・・」
状況を頭で整理出来ていないが、とにかく返事をする。
「真希。私があなたのパートナーのフローラモンよ。」
冷静沈着な落ち着いたしゃべり。
「ほんとに来たんだ。よろしくね、フローラモン。」
真希は落ち着いた声に優しい笑みで答える。
「しかし・・・パートナーデジモンがいてよかったな・・・」
「ああ・・・もしこいつらと会う前に敵に襲われたりしたら間違いなく・・・」
「・・・三途の川渡ってたわね・・・」
「とにかく・・・俺達はテイマーって言うわけか!よっしゃー!」
子供達は動揺しながらも現実を理解し、同時にパートナーデジモンと会えたことを喜ぶ。
「んで・・・これからどうする?」
条が何気なくこれからについて相談しようとする。
しかし一瞬条以外の子供達3人は返答に困惑する・・・
「とりあえず・・・ここ明らかに俺達の生活と違うし・・・やばくないぜ?食料とか・・・」
「あしたのジョー読みてぇー・・・」
「のんきね・・・しかし、博紀の言うとおり、食料のほかにもいろいろ考えなくちゃいけないことが・・・」
空気は一気にどんよりとする。
「心配ないぜ!」
「少なくとも食料はな!」
野生のビーストヴォイスと力を感じる元気な声。ベアモンとエレキモンである。
「ほ、本当か?」
当然条はじめとする子供達が食いつく。
知己が持ってきたスナック菓子で持つはずがない。
「で?食料ってどこにあるの・・・?」
真希がすでに一日中何も食べていないハイエナの感じをさせる声で言う。
「森だよ!あそこには木の実やらが大量に・・・泉もあるし、魚も食えるよ!」
ハグルモンが声を発する。
「森かぁ・・・んで?その森はどこに?」
知己は数日草を食べていないサバンナを移動するシマウマのような形相で言う。
「ここからクンビラモンの方角よ。距離は・・・ざっと100km・・・」
「100・・・km・・・?俺1000m走4分だけど・・・それの100倍?」
「400分。走ったとしても6時間40分ほど・・・というかそのペースで6時間ぶっ放しで走ってること自体きついな・・・」
「ということは・・・まさか歩きか?」
「だとしても、歩きを時速5kmだとして20時間・・・ほぼ一日ね・・・」
一日中歩く。
それは歩くからといってらくなことではない。
しかし、条は言う。
「行けない事もない・・・か・・・」
「そりゃそうだ・・・行くっきゃないだろ・・・」
「賛成だな・・・」
「とにかく死活問題だものね・・・」
「分かった。案内は俺達に任せろ。」
こうして生きるために森へ向かいだす子供達であった。
続く