兄弟、姉妹という関係は、両親が同じである場合はDNAに近いものがある。
髪の色が同じだったり、性格が似ているのは、同じ親同士から生まれてきたためだ。
転送機によって実体化した少女―流美は、兄の山木条と同じようなつやのある黒髪をしている。
その黒髪は肩まで伸びている。
また、同じく実体化した少年―博也は、兄岡山博紀のような色の濃い茶髪をしている。
兄よりも外で日光を浴びているせいか、多少博紀よりも色は薄いが。
「あれ・・・?ここ、どこ・・・?」
「なんだ?ここは?」
流美と博紀は小首をかしげて辺りを見る。
すると即座に見慣れた顔があるのがわかった。
「お兄ちゃん?!」「兄貴っ!!」
そして二人は、お互いの声に気づき、すぐ傍らを見る。
「あ、博也。」
「お、流美ジャン。」
「っと、どうでもいいが・・・流美、お前は何でここに来たんだ?」
条に話題を強制的に終了され、条の質問によって生まれた新たな話題に流美も移る。
「え〜と・・・分からない。・・・お兄ちゃんのパソコン使ってたら・・・」
それを聴き、条は一回ため息をつくと、
「何回も同じこと言わせるなよな・・・勝手に他人のものつかうなって・・・」
「他人じゃないモン。兄妹じゃないの!」
「ああ、分かった分かった。」
条は流美の性格をよく知っている。
自分の意見をなかなか曲げようとせず、あくまで誰に対しても突っ張るのだ。
自我を持ち、意見をはっきり述べる点はいいのだが、多少女子にしては活発な気がする、と条は思っていた。
「んで・・・博也、お前は何だ?」
「ったく、何だよ兄貴ぃ!まるで俺がきちゃいけないみたいによぉ!」
博紀が実の弟に向かっていった問いかけが、多少気に入らなかったらしい。
「んまあ、とりあえずお前ここどこか分かるか?」
「へ・・・?そういえば見たこと無いなぁ・・・」
博也は辺りを見渡し、
「どこなんだ?」
と兄に訊く。だが、
「デジタルワールドだ。」
と答えたのは何故か知己だった。
「ああ!知己さん!」
知己は最近条を会して博紀としゃべるようになった。
それによって博紀からパソコンの件を頼まれてこの前メモリを増量してやったのだ。
「って、今・・・なんて・・・?」
流美が話に割り込む。
今聴いた単語を再度確認した。
「デジタルワールド。つまり、もうさっきまでお前らがいた世界とは違う。」
条がそう答えた。
「何故博也たちが来たのかはわからない・・・時空同士の壁がもろくなっているのか、それとも何か世界同士で磁力のような特別な力が作用しているのか、あるいはお前らも俺たちのように・・・」
博紀は説明の途中で言葉を詰まらせた。
弟を自分が体験したような戦いに巻き込みたくは無いのだ。
「おい、どうしたんだ兄貴?」
博也が次の言葉を催促する。
博紀が条を横目で見たが、条だって妹がこちらの世界にきているのだから、条だってそこで言葉の続きをいえるはずが無い。
だが、そこで思わぬ助け舟が合った。
「あれ?真希さん?」
流美が兄とは別にもう一人見慣れた人を見つける。
「こんにちは、流美ちゃん。」
この二人は小学校のイベントの際、3学年以上はクラスから一人ずつ実行委員を出さなければ行けなかったのだが、その際真希と流美はその役に就き、それをきっかけに話すようになった。
さらにいえばクラブも一緒で、二人とも器械体操クラブである。
後に二人は姉妹のように仲がよくなった。
「あれ?お前真希の事知っていたのか。家でそういう話聞かないからてっきり初対面かと思ってたが。」
「別に話してないわけじゃない。母さんには話しているけど、お兄ちゃんにはね・・・」
「なんだ・・・?それ・・・」
「で、そろそろ本題に入るが・・・」
博紀がいう。
「俺の弟および条の妹もこの世界にきてしまった。俺たちを含め、これからどうするかをまだ話し合っていなかった。ちょうどいい機会じゃないのか?」
そう、子供たちは今まで「生きるため」で頭が精一杯だったし、短い期間に色々ありすぎたため、あまりそこら辺に頭をめぐらせていなかった。
「知己、あの転送気は使えないか?」
博紀がそういうと、知己が再びスクリーンとパネルの方を向く。
だが、そこには異変があった。
「なんだ・・・?一体!」
先ほどまでは平仮名ばっかりだった文字列が、いつのまにか変わっていた。
「これは・・・一体ッ!」
知己はいつのまにか変わっていることにも驚いたが、それよりも内容に驚いた。
「どうした、知己。」
すかさず条もスクリーンを見てみる。
書いてある内容はこうだ。
”ムルムクスモン様。「伯爵」の異名を持つあなたの命に従い、やつらを近いうちに倒す予定です。現在配下のデビドラモンと戦わせ、やつらの力量を測っているところです。神に報われるよう、私は努力を惜しみません。どうか、私の働きを認め、昇進の話もよろしくお願いします。”
「え・・・?っていうことは・・・!!」
次々に子供たちがスクリーンを見る。当然流美も博也も。
「なぁ、スカルサタモンって・・・一体なんだ?」
「馬鹿ねえ、そんなことも知らないの。完全体のウィルス種のデジモンよ。」
二人はあのスカルサタモン及びデビドラモンの力を知らないから気楽だ。
だが、今子供たちは何とか勝てたスカルサタモンに上が、さらには『神』というまたすごい力をもった何かが存在することを理解した。
「なぁ・・・どうする?俺たち。」
博紀が再び切り出す。
実は博紀は内心やはり恐ろしい。
だが、横目でパートナーデジモンを見ると、
「(俺がついてるよ)」
と、励ましてくれるのがわかった。
「とにかく・・・パートナーデジモンがいる限り、俺たちに使命があるのは確かだ。一般的に使命を果たしたものは用済みだ。だが、その使命がすむのにどれだけかかるか。それにその使命をまっとう出来ずに・・・んまあ、それはいいとして、今俺たちはその使命をやるかやらないか、そこから決めよう。」
条がとりあえず指揮をとって話し始める。
今度は妹がいるのだから、普段より慎重に。
みなもそれを悟り、いつもより深く考える。
「私は・・・やりたいっ!」
意外にもそう最初に切り出したのは条が心配している流美だった。
「だって、私だってテイマーになりたいもん!」
純粋な子供の心と、はっきりした意思。それがこの言葉から感じられた。
もしかしたら兄が心配するのを悟ったのかもしれない。
「俺も・・・実はとりあえずやることをやったほうがいいと思っている。」
次に口を開いたのは博紀だ。
「どうせやらないにしても、どうやって戻るのか、今は調べてみないとわからないし、もしそれができたとしても、俺とハグルモンが一緒に確実に現実世界に行けるとも限らない。だから、とりあえず今しかできないことを全力をかけてやってみたい。」
ハグルモンは天気でたとえるなら快晴、という顔になる。
そして、
「もちろん、俺もだ!」
「俺も兄貴と同じ!」
「みんながそれでいいのなら・・・真希は?」
「私も・・・そうね。やりましょう。」
博紀の考えにより、みなが次々に賛成意見を述べる。
「んじゃあ決まりだ。だけど・・・」
条は言葉を言いかけ、流美のほうを見る。
「すまないな、何日もいなくてよ・・・それにこっちにまで来させてしまって・・・」
「何日も?何言ってるの?お兄ちゃんが知己さんの家に言ってから数分しかたってないわよ。」
「へ・・・っ!?」
条が唖然とする。いや、条ばかりではない。博紀も、知己も、真希も。
「おい博也!何時だった!?パソコンの時計表示!」
「あん?え〜と・・・4時15分だったけな・・・」
時間のな流れが違うことは確定としていいであろう。
4人はそれを聞いて安心する。
「そうか・・・」
「よかった・・・」
子供たちは本当にほっとした。
怒られるとか言うレベルをすでに超えていて、心配しているであろう、という心配りがずっとあった。
そんなとき、
「なぁあ!さっさと行こうぜ!」
子供たちはエレキモンの呼びかけで気づく。
そうだ、自分たちが次にやることは・・・
「知己、そのパソコンでなんか分かる?」
フローラモンが訊く。
知己は一瞬戸惑ったが、すぐに作業に入ろうとする。
「あぁー、ええ・・・と・・・」
キーボードで操作していると、あることに気づいた。
時計表示がある部分が見るページによって変わっている。いずれも数字が0と1の組み合わせ。
「なぁ・・・博紀・・・」
知己は一番知恵と知識がありそうな人物にその課題をバトンタッチ。
「ん?なんだ?」
「この数字なんだが・・・」
パソコンにまたもやデジモンたちと子供たちの視線が集まる。
「・・・暗号?」
博紀はそうつぶやいたが、チンプンカンプン。まったく分からなかった。
「・・・すまん。俺は頭が固いんでな。」
博紀はそういって辞退する。
と、突拍子に、
「まさかっ!」
周りにいた子供たちおよびデジモンたちの鼓膜を震わせたのは知己の声であった。
突拍子に声を上げた本人はみなを押しのけてパソコンっぽいものの前に陣取り、キーをカタカタと鳴らす。
一種の文章編集ソフトを起動させ、ページをめくるごとの数字を記入する。
「そうか!」
今度は博紀が気づく。
「0と1で気付くべきだった。『デジタル信号』だな!」
それが時計の表示の意味だった。
知己はその数字を打ち込む。
すると、勝手に文章が変わり始める。そして、それがプログラムとなる。
「これ・・・なに?」
真希はそれを見てつぶやいた。
それは一瞬ではわからないが、地図だった。一つの場所が光って点滅している。
まるで宝の地図のように。
「・・・ここに行けってことなのか?きっと。」
条はそういいながら、自分と同じくスクリーンを見ている自分の妹をちらと見る。
期待にわくわくしている表情だ。
こりゃあ・・・とめるのに苦労するぞ・・・
と心の中でつぶやくと、
「んじゃー、ここを目指そう。博紀、どこら辺か分かるか?」
「・・・おおよその見当はつくけど・・・まず、ここが森だろう・・・そんでもって・・・ん?」
「どうした?兄貴。」
博紀が光点がある場所を現在位置から想像した。
「ここ・・・この前の・・・」
「あれかっ!」
博紀が言いかけるとハグルモンがひょこっと顔を出し、
「この前行った遺跡だな。」
「ああ・・・そうだ・・・」
しばらくの沈黙。話は聞いている。
危険かもしれない。だが、希望を信じて進む。
恐怖を支配する、それを勇気と言うのだ。人間だからできること。
「行こう!さっき決めたんだ!」
条が言うと、
「ああ、俺たちが守る!」「任せて。」「腕がなるぜ!」「ええと、俺がんばるよ!」
デジモンたちが答える。
子供たちは今までいた地下から出た。
「フォレストタウン」という多少ぼろついた看板に背を向け、森を出る。
これがまた新しい旅の始まりだった。
(やはりあのプログラムを入れておいてよかった・・・ばれない様にするために、あのような手段をとるしかなかったが。どうやら気付いてくれたらしい。彼らはこの世界の希望だ。)
続く