「コノカスッ!クタバレッ!」
つらそうに頭を振りながら立ち上がろうとするグルルモンの頭部を容赦なく踏みつける。
ミシミシと言う音が、静寂した空間の中に響き渡る。
知己、博紀、真希はその光景を見続けることがつらくなる。
当然デジモンたちが攻撃をする。
「ディストラクショングレネードッ!!」
ガードロモンが手榴弾を放つ。
それは対象物、つまりスカルサタモンに当たる前に、爆発した。
スカルサタモンは杖に念を込めて振り、衝撃波を発生させて当たる前に爆発させた。
だが、ガードロモンたちはそれも考慮に入れていた。
爆発している際は煙で自分たちが見えないことを利用し、遠距離の攻撃ができないグリズモン、ウッドモンが回り込み、グルルモンを担いで戻る。
「チッ・・・マア、少しは楽しませてくれヨ。」
スカルサタモンはとくに攻撃するそぶりを見せず、余裕だった。
杖の宝玉をどこから出したのか几帳面に布で拭いている。
「グルルモン・・・なんで・・・そこまでして・・・」
知己が痛々しい頭部を見ながら言う。
「ふふふ・・・言ってなかったことがあるんだ・・・条・・・だったな・・・お前にも聞いて欲しい・・・」
条は今戦闘に参加できない自分に聞いて欲しいこととはなんだろうか、と考えた。
だが、自分に今できることをやろうと思っている。すぐにグルルモンの言葉に耳を貸す。
「ふふふ・・・『蒼き竜が邪悪に目覚めるとき、深紅の竜へと覚醒する。深紅の竜が傷つくと、黄金の正義の心を取り戻したとき、再び覚醒する』。実はこうなることを知っていた・・・お前らが来る前、まだ平和だったころこの世界の一部の伝承であるこの予言を俺は受け継いだ。だからお前らが来たときに全て分かった。こいつらがそうなんだとな。だまっていてすまない。」
「な・・・」
知己は複雑な感情だった。知っているのなら止めて欲しかった。だが、グルルモンの何かを伝えようとした表情を見ると、それを言うことはできなかった。
「伝承には続きがある。『黄金の心を持った竜へとなる際、傷ついた体を清める力が必要なり。そのために一体の獣方デジモンが犠牲になる』とな・・・」
「じゃあ・・・お前まさか・・・」
博紀が動揺する。
止めようとした。だが間に合わない。
「うぉぉおおおおお!!」
グルルモンが全てのパワーをブイドラモンに光として授けた。
その光は最後にかすかに「頼んだぞ」、確かにそういった。
傷ついて倒れ、ぐったりしているブイドラモンに、その光は流れ込んだ。
そして、ブイドラモンと条は光に包まれた。
「ここは・・・」
目をあける。
そこには真っ白な空間しかない。
だが、目の前にレッドブイドラモンが傷つき横たわっている。
山木条は考える。
”先ほど俺はレッドブイドラモンに近づくのをためらった・・・
でも、今は違う。皆が自分のパートナーデジモンに接しているのを見て分かったんだ。”
条はレッドブイドラモンに近づこうとした。今度はためらいが無い。
自分の友達・・・その関係を超えたパートナー・・・
どんなになっても・・・エレキモンのときと同じなんだ・・・
「レッドブイドラモン!!」
叫びながらレッドブイドラモンに抱きつく。
「俺・・・絶対逃げない!」
レッドブイドラモンはその瞬間、黄金の光を放った。
「ありがとう、条。力がみなぎってくる。この力は俺とお前の絆の結晶だ!」
心の伝達。
他の人には時間も経っていないように見えるし、聞こえもしない。
魂が魂に呼びかけあい、いつかその声は強大な力を生む。
「ブイドラモンッ!進化ぁぁぁああっ!ゴールドブイドラモンッ!!」
闇の空間を照らす黄金の輝き。
スカルサタモンはその光を目に受け、耐え切れず両手で目を覆う。
これはやばい。そうスカルサタモンが悟った。宝玉を拭いていた布を後ろに投げ捨て、杖を構える。
「スカルサタモン。お前の邪悪な心、俺の光で塵と化せ!」
「く・・・ネイルボーンッ!」
光に耐え切れず、スカルサタモンは杖の宝玉から邪悪な光を出す。
先ほど磨いたこともあってか、あるいはスカルサタモンが全力で技を繰り出したためか、先ほどよりも怪しくまぶしい光を放つ。
しかし、ゴールドブイドラモンから放たれる輝きで浄化される。
何回も杖から妖光をだしたが、そのたびに浄化された。
「く・・・」
ならばと言わんばかりに、スカルサタモンは近距離戦に向かう。
スカルサタモンは黒い翼を使って飛び掛るが、ゴールドブイドラモンはブイドラモンよりも数段早いスピードでジャンプし、空中からパンチを放つ。
「マグナムパンチッ!」
露骨を砕くグシャァッと言う音をたて、スカルサタモンは地面に倒れる。
「グッ・・・クズの・・・分際デ・・・」
スカルサタモンは、杖を強く握る。
「うぉぉおおっ!」
ゴールドブイドラモンは次の攻撃にかかろうとする。
スカルサタモンは、杖を握る手に力を込める。でゴールドブイドラモンを殴り飛ばそうとているのだ。
「カッターシュートッ!!」
手から放たれた風の刃は、杖をただの棒切れにする。
「グ・・・ウォオオオ!!」
スカルサタモンは攻撃力が低いわけではない。
力と破壊を求めてこんな姿になったのだ。
スカルサタモンはホネの拳でブイドラモンの鳩尾を狙う。
「ハンマーパンチッ!」
ゴールドブイドラモンはそれをするりとかわし、スカルサタモンの腕に全体重を乗せたパンチを繰り出す。
スカルサタモンの片腕は、メキャァッ!という折れる音を出して地面に落ち、粒子化する。
「ブイブレスアローーッ!!」
スカルサタモンに片腕を失った悲痛の声を上げる時間を与えず、ゴールドブイドラモンはすぐさま必殺技を出す。
輝く高熱戦により、スカルサタモンは焼かれる。
「グァアアアアアアアアァァッ!!」
スカルサタモンの叫びはすぐに止まり、デリートされる。
空間には静寂した時間が流れた。
ゴールドブイドラモンがエレキモンに退化し、条の元に戻ることでその静寂はとける。
「条〜〜〜〜っ」
「エレキモン!すごいぞお前!」
「へへっ!」
「すっげー・・・」
「やった・・・のか・・・」
「みたいね・・・」
皆が勝利の実感が無かったが、時間が経つごとに実感がわく。
「おい、皆来てくれ。」
博紀が照らされた空間の奥で言う。
スカルサタモンがいなくなったことで、闇は消滅したのだ。
「どうした・・・?」
そこには何かの装置があった。
世界地図くらいの大きさのスクリーン、下にはキーボードのようなタッチパネルがあった。
「なんだ・・・これ・・・」
条がそれを不思議そうに見る。
「何だと思う、知己。」
「・・・とりあえずキーボードのボタンに似ているからなぁー・・・どこかのキー・・・このエンターキーに似たものを押せばいいんじゃ・・・」
コンピュータに詳しい二人が作業を進める。
他のキーの2倍近くある大きさのキーを押す。
そうすると、スクリーンに映りだす。
「これ・・・なにかしら・・・」
表示されたのは、数字や記号、文字の配列だった。
「ちょっと待ってくれ・・・」
知己がキーを押し、文字化けていたような文字がデジ文字となって現れる。
「た・・・す・・け・・・て・・・」
博紀がスクリーンの文字を見て言う。
知己は画面を見て、よく見るとたすけての文字列にハイパーリンクがつながっていたので、ジャンプしてみる。
「げ・・・」
デジ文字の膨大な量の文章が表示される。
「ええと、『よ・・・く・・・』」
博紀が読んでいる途中、画面の文字列がまた変わる。
「ちょうどデジモンフォントと日本語の表示があったから、デジモンフォントから日本語の文字列に変えて見ようと思う。」
「流石だな、一般常識は無くてもパソコンについては人並みを越えている。」
「以外に器用ね・・・知己ッて・・・」
「うるせ・・・」
知己は少してれながら、キーをいじっていくと、スクリーンには読みやすい文章となった日本語が表示される。
「何々・・・『よくスカルサタモンを倒せましたね・・・しかし、奴はあなた達の実力を測るためのダミーに過ぎません。これからはもっと大変な場面にたびたび直面するでしょう。そのためにそのうち役に立つものをそちらに転送します。”これ”をクリックしてください。』か・・・」
知己は条が読んだ内容を理解し、キーをいじって文字列をクリックする。
画面には英語で「トランスファープログラム」と記される。
知己はそのプログラムをそのまま実行させる。
よく右を見てみれば、何かの装置があった。
おそらくこれが転送装置なのだろう。
その装置を全員息を飲み込んで見ていると、データの配列が装置の上に現れ、それは実体となる。
装置に転送されたものはゴーグルだった。
「ほぉー。こいつはいいや・・・」
知己がつけようとするが、博紀が奪う。
「お前がつけるって決まったわけではないだろう。俺に貸せ。」
「おい、俺だって着けたっていいだろう?」
条もゴーグル争奪戦に参加する。
ゴーグル・・・
それはデジモンファンにとって喉から手が出るほど欲しいアイテムである。
ましてやデジタルワールドで手に入れ、しかも意味ありげなメッセージから転送されている。
ここで着けない手は無い。
「ちょっと待って。プログラムが終了したら、新しい文字列が現れたわよ。」
真希がついに殴り合いさえしようとする3人に真希が言う。
「へ・・・」
3人はパートナーデジモンに抑えられながら同時にそう答えた。
「そうそう、今は落ち着いて。もしかしたらこの世界についてなんか分かるかもしれないじゃねえか!」
「ったく、血の気の多いやろうだなーっ!」
「いつも的確な判断をする博紀まで・・・」
「子供ね・・・」
3人はデジモンたちに白い目で見られ、多少恥じる。
「とりあえず、これ見て。」
PS、転送したゴーグルは、先ほどスカルサタモンを倒したデジモンのテイマーがつけてください。
「あのホネやろうを倒したのは俺だぞっ!」
エレキモンが自信気に言った。
その後、条は思わず笑みを堪えられず、逆に知己と博紀は悔しさをさらけです。
「へっへぇ〜!悪いな。よくわからないが俺が着けよう。」
「く・・・超レアアイテムがぁー・・・」
「・・・(絶対いつか殴ってでも奪い取る・・・)・・・」
二人から放たれる怪しい目の光を見て、真希は溜息をついた。
まったく・・・分かってないのね・・・
「このメッセージは誰からなの?」
真希の一言で3人は冷静に考えた。
そして、取ろうか取らないか、複雑な感情を抱き続けること数分と言う時間が過ぎていった。
(メッセージを送信もできたし、さらにデータの転送もできた。あの少年達がそれほどの力があったっとは・・・あの少年たちとそのデジモンたちには、私が思っている以上に力があるようだ。)
続く